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ナナへ

朝はシャワーだけで済ますことが多い。ここ数日は寒さが厳しいから
さすがに湯船につかってカラダを芯から温めてやらなければならなか
った。部屋に戻ると、つけっぱなしのラジオからジェリー・ジェフ・ウォー
カーの『ミスター・ボー・ジャングル』が流れてきた。私は風呂場で洗い
落とせなかった涙を目にいっぱいためて、しばしその曲に聴き入った。

 “♪彼はカウンティ・フェアで演芸団と踊っては南部中を回ってた。
  15年間一緒に旅してきた愛犬との涙の物語を語った。その犬
  も今は死んでしまったが、それから12年経っても彼はまだ悲
  しんでいた・・・・・・。”

私は悲しくなかった。今朝愛犬のナナが息を引き取ったところだった。
彼女はとてつもなく幸せな子だったという確信があったから、だから、
ナナが死んでも私は悲しいとは思わなかった。私たちは与え、与えら
れ、代わり映えのない一日が損失ではなかった証拠に、顔を見合わ
せて互いの存在を確認しあえればそれでよかったのだ。

ナナは晩年、耳が聞こえなくなっていた。それは神戸に住む兄からの
無心の電話が頻繁にかかってくるようになった頃からの症状ではなか
ったか。叱責、怒り、嘆き、落胆の声がこの家に響きわたるようになっ
て、ナナはそんなものは聞きたくないと耳に栓をしてしまったのだ。こ
こ最近は浅い眠りからさめると、昼となく夜となく悲痛な叫び声をあげ
ることが増えていた。

どこが痛むのでもなく、夢をみていたのか、はたまた忍び寄る邪悪な
影からこの家を守ろうとしていたのだろうか。怒ったような奇声を発す
るナナに歩み寄り、頬や背中にしずかに手を添えてやると、彼女はま
たすやすやと眠りに戻っていくのだった。いま、ナナは永い眠りについ
たところだ。芸はなにひとつできず、我がままで、抱かれるのが嫌い
な犬だった。人を食ったところがあるが憎めない奴だった。

 “♪踊ってくれよ、ミスター・ボージャングル・・・さあ。”

ジェリー・ジェフが最後のフレーズを穏やかに歌い終えるとラジオは10
時の時報を伝えた。違うよ、ナナ。きみはもう踊らなくてもいい。ときどき
きみの話を誰かにするとき、きみは落ち着かなくなるかもしれない。だけ
ど、そんなときは耳に栓をして、こちらに背を向けてひとりごちながら眠
ればいいんだ。そうしていつか、ぼくがその耳栓を外して驚かせてやる
その日まで。

(歌詞対訳は、Kuni Takeuchi氏による。
 ニッティー・グリッティー・ダート・バンド
 『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』収録)
■□

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(文=石垣ゆうじ 絵=TOMOt)
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by momiage_tea | 2011-01-11 22:52 | ゆうじ × TOMOt

トト (10月6日)

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トトは極東アジアの僻地へやってきた。
自由の国のアラバマ州からやってきた。
ジミー・リー・サダスとかいうじっちゃんに
描いてもらったときにゃ~、確かオイラは
犬コロだったはずだが・・・とトトは思った。

いつどこでニャンコになってしまったのか
見当もつかない。あのでっかい貨物船で
退屈のあまりネズ公を追いかけまわして
いたからか? 生の魚のおこぼれを頂戴
し過ぎたためなのか? まぁ、いいやな。
そもそもアラバマくんだりから抜け出して、
大海原に憧れたオイラが悪いのさ。

トトは月夜を見上げてさらにつぶやく。

アンクル・ジムよ、達者かね? ここじゃ
人は皆、キツネみたいな顔をして歩いて
ますぜ。そしてオイラ・・・おっと、アイツら
ときたらご主人様とやらに紐でくくられて
歩いてますぜ。まるでそれが歓びだとい
わんばかりに・・・。ぷぷ。

ネオンが綺麗だな、がトトの第一印象で
あった。ここは餌が豊富で味も抜群だと
きている。しかし!とトトは思う。アラバマ
の星空もナマズの缶詰の味だって決して
悪くはなかったもんさね。ひっく。

トトは酔っ払いの飲み残しをぺロリとやった
もんだから、少々足にきていた。おまけに
トトは泣き上戸だった。お月様だけはどこで
も一緒なんだにゃ~。伸びをしながら、最後
にそういうと、トトは引っ越したばかりの新居
へ、プー横丁のバラックへと帰っていった。

(絵=トモッと)
(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2005-10-06 01:23 | ゆうじ × TOMOt

もみあげを見る眼。6月17日(金)石垣ゆうじ記す。

《プロローグ》

ボクは梅雨の只中に生まれた人間であるからして、ジメジメすること
が多い性分である。それでも降りつづける雨にもめげず、むしろズブ
濡れになってうたい踊るジーン・ケリーの逞しい明るさを、壁肌をつた
い這って生きているカタツムリに見出し、この憂うつな季節をなんとか
乗りきろうとしているのである。

大好きなカントリー・ミュージックの比喩として語った、時の大統領、
ジョージ・ブッシュ(親父さんの方)によればホワイトハウスの執務室
には「虹を見たくば、雨に佇む」と刻まれた机が設置されてるらしい。
こういう話をきくと、ボクもカタツムリのように逆境(?)においてこそ、
強く生きていかねばならぬのだと襟を正す思いになる。


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しとしと。じめじめ。
じめじめ。しとしと。

ナナは縁側から灰色にくもった空を見つめていました。
「今晩はお散歩できるのかしらん?」

ナナはとっても水に濡れるのが大きらいなオテンバお嬢さんなので、
ぴょんこ、ぴょんことお外を駆けまわれるか、とても心配でなりません。
けれども、夕方になるとポツリ、またポツリと雨つぶが落ちてきました。

小鳥たちは大きな樹の枝にとまって羽を休めたあとでしたし、蟻さん
やミツバチさんたちも、お仕事を終えてマイ・スウィート・ホームでゆっくり
くつろぎ始めるところでした。

ナナは、カエルさんたちが6月の梅雨闇の夜をひとり占めした歓喜を、
オペラで合唱しはじめるのを聴くと、いつもノイローゼになります。

今夜はおしっこを我慢して、まぶたの裏でお散歩をする夢でも見よう。
ナナがタンスの抽斗(ひきだし)でできたお部屋にもどろうとしたそのとき
でした。

「ほら行くぞ、ナナ!」

ご主人のその声を聴くと、ナナはロールパンみたいにくるんと巻いた
しっぽを、ほんのちょっとだけゆさゆさと揺らしてみせました。それでも、
ツタツタ、ツタツタと地面にしたたる雨音を確認すると、あからさまに
ご主人の誘いを無視するのでした。

ナナは、アンモナイトの化石のように丸まって、うわ目づかいでチロッ
とご主人の様子をうかがっておりましたが、ご主人は、ナナがふて寝
をしていることを知っていたいたので、黙ってナナの首輪にお散歩用
のリールを括りつけるのでした。

ご主人が人さらいのような甘い声をかけてくるので、ナナはなおのこと
警戒心を強化してアンモナイトに徹するのでしたが、ご主人の右手に
ちらりと見えかくれする、おやつバーの誘惑にはとてもかないません。

口におやつをくわえたままのナナは、気がつくと雨の中を駆けていました。
最初のうちはいやいやだったナナでしたが、たくさんの雨水がたくさんの
小川をつくっていきおいよく流れていくのや、いつもより草のいい匂いが
ただよってくることがわかると、次第にご機嫌になるのでした。

お散歩の途中でぶるぶるっとやると、なぜかご主人は「やめとくれ」と
悲鳴をあげるので、ナナはだまされて散歩につれてこられたお返しが
できたようで、おかしくてたまりません。

もう少しでお部屋にたどりつくというところでした。ナナがすっきりした
顔で三軒となりのお宅の前をとことこと歩いていると、塀にちっちゃな
アンモナイトがいるのを発見しました。

ナナがクンクンとそのちっこいのを偵察していると、ご主人が「そいつは
カタツムリというのだよ」と教えてくれました。

そのカタツムリとやらは恥ずかしがり屋さんらしく、ナナが鼻先でご挨拶
すると、モジモジして殻に閉じこもるのでした。

でもナナは、カタツムリとはいいお友だちになれそうだと思いました。
なにせカタツムリは誰よりも雨の素晴らしさを知っているように思えた
からです。

ナナはこの次には、このお友だちと一緒に雨のあとにサラサラと輝く
大きな大きな虹を見てみたいと思うのでした。     (おしまい)

■文/石垣ゆうじ 
□絵/トモっト
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by momiage_tea | 2005-06-17 06:54 | ゆうじ × TOMOt

もみあげを見る眼。6月7日(火)石垣ゆうじ記す。

長距離輸送の競走馬が走らなくなるのと一緒で、ぼくも昨夜は
寝不足と移動の疲れでなにも書けなくなってしまった。午前零時
から二時間、どっかりと革張りの椅子に身をもたせかけ、作業机
に向かってはみたものの、ただその端に置かれたマグカップを
重症の麻薬患者よろしくひたすら見つめていただけに過ぎぬ。

庭先ではカエルが歌っていたが、6月の仙台の夜はまだまだ肌
寒い。両親や愛犬ナナと久しぶりに再会し、当たり前のように自
室のベッドへ倒れこむ。ふと天井の木目を見やれば、あの東京
のせわしない喧騒さえも懐かしく思えてしまうのだからやっかい
だ。

きのうの夕方、東京から仙台へ向かう高速バス乗場へと急いで
いたときのことだ。空腹と重い荷物のせいもあり、ぼくは稽古不
足の役者が初日の舞台を迎えたみたいな焦燥感の入り混じっ
た緊張に襲われていた。単に息切れて、動悸が乱れただけかも
知れない。

それでもだ!なんともはや、驚くべきことに、そんなぼくの気持ち
を落ち着け励ましたのは、職場からの1本の電話であった。必要
以上に仕事はしたくないズボラな人間のはずなのに、このときぼ
くは仙台での休暇明けにも、それなりに現場で必要とされている
ことに喜びを感じてしまっていたのだ。やれやれ。

さてと、すっかり出遅れてしまった。試合開始のゴングが鳴り響く
前にお約束の場所へと出かけねばならない。どこえ?それはまた
後日報告できるだろう。アディオス。当欄の読者に幸運を―。


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■□
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by momiage_tea | 2005-06-07 17:11 | ゆうじ × TOMOt

もみあげを見る眼。6月1日(水)石垣ゆうじ記す。

5月29日のTBS「情熱大陸」には、鉄道に造詣の深い政治学者の原武史氏が出ていた。
全国の駅に点在する名物弁当やら立ち食いそば屋を巡り歩いて、その味や店構えに変
化はないかと、暇さえあれば旅して歩くその姿に、原武史氏の根底に眠る少年のよう
な純真さと優しい眼差しがうかがえた。

番組の中で彼は、中央本線の小淵沢駅に降り立つと、一目散に丸太小屋の立ち食い
そば屋をめざし、さっそく天ぷらそばを啜るのであった。その変わらぬ味に安堵と喜び
の笑みをもらす原氏は、駅そばを「残された最期の砦」と表現した。「それがなくなっちゃ
うというのは、自分がどこにいるか分からなくなるということ」だというのだ。

こういう言葉を聞くとボクは嬉しくて堪らなくなってしまう。来週ボクは東京から実家の
ある仙台へ4、5日帰省することを決めたばかりであったのだが、その一番の目的は
愛犬ナナ(柴メス・8才)の散歩をすることなのである。あの猫のような自分勝手な小憎
たらしい可愛さが恋しくて仕方がない。

ナナと夕闇の川内へと出かけていき、東北大学記念講堂の裏手にある「三太郎の小径」
(作家・阿部二郎の功績を称えて設けられた遊歩道)などを駆けていると、何とはなしに
自分の居るべき場所や進むべき道が見えてくるような気がしたものだった。今度ボクが
「三太郎の小径」を歩くとき、その心に去来するものは一体どんなものなのだろうか?
新たな風景は芽吹いているのであろうか? 

ところでナナは「自分がどこにいるか分からなくなる」なんてことがあるのかしらん?


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■□
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by momiage_tea | 2005-06-01 12:47 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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