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アルバム“ twin fiddles ”より⑦ (毎週水曜日更新)

【それだけのこと】

また議論になった。なにもきまらなかった。
答えのみつからないまま、すっかり憔悴しちまった。
いつものことさ。そう、いつものこと。

男は帰るといって、女は帰らないといった。
それだけのことさ。そう、それだけのこと。

ロウソクを燈してみても、なにもみえなかった。
布団をかぶったまんま、夢みることにも飽きちまった。
いつものことさ、そう、いつものこと。

女は帰れなかったし、男は帰るよりなかった。
それだけのことさ。そう、それだけのこと。

ノートをひらいた。まっ白のまんまだった。
こころのもやもやを、書き綴ることができなかった。
いつものことさ。そう、いつものこと。

男は口をつぐみ、女は行き交うひとびとをみつめてた。
それだけのこと。そう、それだけのこと。

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-14 23:54

『きっとじぶん自身に宛てた手紙』⑧ (毎週月曜日更新)

“ 世界がきみを悲しくさせ、青空が灰色の空に変わろうと、どうだ
というのか。苦しみのあとに、もっと笑えるようにならなくてはい
けないのだ。ホワイ・ウォリー。なぜなやむのか ”(――長田弘)


【火曜の朝へ】

またあたらいしい一週間がやってきた。月曜の朝の暗がりのなかで、
ぼくはしずかに目を覚ます。ラジオをひねると、メル・テリスの娘が、
“ All The Good Ones Are Gone ” を歌っているところだった。

ぼくは感謝する。はじまったばかりの一日に。読みかけの積読から、
ふさわしい一冊を選びとり、外套をはおる。手にしたのは、ロバート・
ジェームズ・ウォラーの『ボーダー・ミュージック』(再読)だった。

春の水っぽい香り。好きな匂いだ。けれども、「出番が早すぎるよ」
ぼくはたしなめる。春は、満を持してやってくるべきなのだ。老人と
犬が傍らを通り過ぎる。ぼくは知らぬがその犬はぼくを知っていた。

悩むのは真剣だから。いい時期はそんなに長くはないから。そうで
はない時をどう生きるのか。ぼくはメル・テリスの娘の歌を口ずさむ。
“ All The Good Ones Are Gone ” すべてが過ぎ去る前に・・・。

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-12 23:59

『メトロ④を降りれば・・・』 (毎週日曜日更新)

【八百屋のおやじ】

名ばかりの三ツ星ホテルで、飽きるほどのパンとチーズを
義務的に胃に流しこんでいた夏もあった。宿屋の2階の窓
辺にすわり、朝まず目にするのは、陽気なチュニジア人の
おやじが営む一軒の八百屋なのであった。

ぼくたちの朝食よりいつだってすこし早く、その八百屋は始
まっていた。果物や野菜のつまった箱から中身をとり出して
は陳列し、やたらと休憩の多いおやじ。

蒸し暑いパリの6月の朝に、ナイトガウンをまとったまま、時
折り戸口に寄りかかっては親しげな笑みを行きかう人々に
投げかけている。

ぼくとジンは毎朝、きょうという一日をどうにかして乗り切ろう
と思案し合ったものだ。けれども、互いに向かい合って腰掛
けているふたりの視線は、通りの向かいの八百屋のおやじ
に向けられていて、ぼくにはジンがそれほど真剣に策を練ろ
うという気概が感じられず、苛立ちをおぼえていた。

きっとぼくが焦れてしまい、ひとりパリの街角で迷子になって
いるとき、彼はロンシャン競馬場を広大に囲うブーローニュの
森の小径で、おなじく開催日を確認せずにやってきた邦人と
すれ違い、気まずい会釈でも交わすことだろう。

パリのうっとうしい夕暮れ。くたびれたふたりが落ち合うのは、
いつでも宿屋の向かいにある、チュニジア人のおやじが営む
八百屋なのであった。

おやじはきょうも屈託のない笑顔をふりまき、バナナやヨーグ
ルトの精算を済ませるぼくたちに、言葉を投げかけてくれる。
「ナカータ!」。

サッカー好きなおやじにとって、極東アジアからやってきたぼく
等への親しい挨拶は、いつだってボンジュールやメルシーでは
なく、「ナカータ!」という世界の標準語なのであった。
■ 
(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-11 21:27

アルバム “ twin fiddles ” (シークレット・ソング)

【土曜の夜の雨にながれて・・・】

 旅立ちの朝が、やってくるのが怖かった。
 きみがきて、手を握りしめていて欲しかった。
 じぶんを騙して、先延ばしつづける日々よ、

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。

 やっとみつけた、じぶんの居場所。
 やっとみつけた、ほんとうの仲間。
 やっとみつけた、もうひとりのわたし。

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。

 口をつぐんでも、だれもが気づいていた。
 口にだしても、それは誤魔化しにすぎず、
 口をついてでるのは、ため息の言葉だけ。

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。

 やっとみつけた、じぶんの居場所。
 やっとみつけた、ほんとうの仲間。
 やっとみつけた、もうひとりのわたし。

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。 

 優しさは卑屈じゃなく、臆病でなく、強さだ。
 優しさはじぶんの蒔いた種の、実りの収穫だ。
 優しさを失いたくなくて、だから自ら折れてった。

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。

 やっとみつけた、じぶんの居場所。
 やっとみつけた、ほんとうの仲間。
 やっとみつけた、もうひとりのわたし。

 土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。

 旅立つ勇気と、留まる勇気と、きみとぼくと・・・。
 耳を澄まして、こころをひらいて、ほほ笑んで・・・。
 “あとは野となれ、山となれ、さよならだけが人生さ”

 きみよ、土曜の夜の雨にながれて、
 きみよ、土曜の夜の雨にながれて、
 きみよ、土曜の夜の雨にながれて、安らかれ。
 ■
 (石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-10 23:59

『ネーサンとほうきの木』<後> (毎週金曜日更新)

「きみにおひさまをみせてあげるよ」
雨風をぬぐおうともせず、ビッグ・ジョンはいった。
「きみを元気にしたいんだ」

ネーサンはだまったまんまだ。《どうしてぼくが
おひさまをみて元気になるというのだろう?》
ネーサンはおもった。《それに、じきに夜に
なってしまうじゃないか》

ビッグ・ジョンは葉っぱをすべて失った。
けれども、のっぽないっぽんの木を
ゆさぶったのは嵐じゃない。
ビッグ・ジョンがじぶんでそうしたのだ。

ビッグ・ジョンはからだをほうきにして、
ネーサンのために空をそうじした。
それは千人力の大仕事だった。

やがて貨物列車がむかうのとおんなじ、
西の空からおひさまが姿をあらわした。
「きみとおはなししたかったんだ」ほっと
したおももちで、おひさまはいった。
「あの貨物列車がどこへゆくか教えてあげるよ」

ネーサンはよろこびいさんだ。あたまは
いたくないし、いまではポーチにしっかり
と立っている。そうして、おひさまと約束
も交わした。

あすの朝いちばんに、部屋からみえる
いっぽんの木のしたで、山のむこうの
おはなしをきかせてもらうのだ。

ビッグ・ジョンはネーサンの顔におひさま
にも負けない明るさがもどったのがうれし
かった。

それにネーサンが、「あしたはいっしょに
おはなしをきこうね。きょうはぼくのために
ありがとう」といってくれたのも。
<完>

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-09 23:34

『ひとつ余計なラストパス』② (毎週木曜日更新)


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                                     (写真=Az)


【それぞれのきみへ】

 きみは灯台がみたくて海にきた。
 きみは波乗りを終えて充電を完了した。
 きみは仕事に行き詰まってここにきた。
 きみは誰にも見せられない顔を隠しにここにきた。
 きみは恋心から愛情への更新を確信した。
 きみはこれっきり、もうこの浜辺にはこない。
 きみはあした黒いラブラドールレトリバーとここへくる。
 きみはしかたなくこの浜辺へとついてきた。
 きみはきみにしかできないやりかたで海と会話した。
 きみはうつくしい貝殻をみつけるのがお得意だ。
 きみはお月さまと盃を交わすだろう。
 きみは靴ひもを結い直すフリをして夕陽にお辞儀した。
 きみはそれでもやっぱりきみだった。
 ■
 (文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-08 23:58 | 写真

アルバム “ twin fiddles ” より⑥ (毎週水曜日更新)

【せせらぎ】

どこの川だか覚えてない。づっと遠くだ。
初夏のやわらかな日差しのなか、
せせらぎが銀色に輝いていた。

ぼくとおにぃ(兄)は下流でダムをこさえ、
夕方には破壊した。おやじと中島のおじさんは、
釣果を自慢しあい、肩を叩きあっていたものだ。

帰りの車中で、母さんは大漁を喜んでくれる
だろうかと考えた。きっとうまく料理してくれる
のだろうと・・・。

どこの川だか覚えてない。づっと西だ。
初夏のやわらかな日差しのなか、
ひざまで浸かってはしゃいでいた。

ぼくはおにぃ(兄)の寝ている脇で、
車窓から、見知らぬ町が暮れなずむのを眺めてた。
そして母さんも来ればよかったのにと、寂しくなった。

婆ちゃんの世話をしなければならないのなら、
婆ちゃんも連れてきたらよかったのに。そうしたら
婆ちゃんは、むかし話をしてくれたかも知れない。

どこの川だか覚えてない。ずっと遠くだ。
初夏のやわらかな日差しのなか、
せせらぎが銀色に輝いていた。

どこの川だか覚えていない。山をいくつも越えたとこだ。
ぼくが大きくなったら、子どもときれいな奥さんを連れて、
その川を目指すだろう。

どこの川だか覚えていない。だけど辿り着けるはずだ。
ぼくが大きくなったら、婆ちゃん(母さん)も連れてゆくんだ。
あのせせらぎが銀色にかがやくところへ。

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-07 00:00

『きっとじぶん自身に宛てた手紙』⑦ (毎週月曜日更新)

『ヌーン・シティにゆこうと思う旅行者は、いまの
ところ じぶんで方法を講ずるより外に手がない』
(――トルーマン・カポーティ:『遠い声、遠い部屋』)


【オブラートに包んで、ある写真家への返信として・・・】

ぬきさしならない状況に陥って、思案して、結局はじぶんしか
たよる者がないと気づいたとき、まったく頼りにならないぼく自
身のうちにも、まだ頼り甲斐のある同僚がいたのだと気づかさ
れることがままある。まぁ、そんな日々がつづいている。

否応なしに登場させられた彼は、いままでぼくのこころのうちに
こもったまま、出番のない人生をやり過ごしていたのだ。けれど
彼はあまりに気まぐれだ。飽き性で、実のところまったく頼りに
ならないあいつよりも、さらに拍車をかけて頼りにならないことも
しばしばだ。

ジェリー・ダグラスの弾くドブロの音色のように、書きたいと思う。
ジェリー・ダグラスの弾くドブロの音色には、気むずかしさを引っ
ぺがした乾いたぬくもりがある。ピート香のくせはいらない。ただ
清流の流れるままに、強要しない自制のもとに書きたいのだ。

闇雲にやりすごすことを怖れて、書きつづけたい。だがしかし、
それはただ闇雲に書きつづけることとはちがう。ぼくは書きたい、
書くに値することを。あなたの助言は励みになったけれど、それ
はぼくの仕事ではない。気に留めてくれて感謝。くれぐれもお気
を悪くされぬように。

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-05 12:28

『きっとじぶん自身に宛てた手紙』⑥ 

【コロヘ】

元気かい? どこでなにしてる? ひそかにぼくのうしろで
見守ってくれたりするのだろうか?

きみが11年前の節分の日に、風邪をこじらせて逝ってしま
ったとき、ぼくは寄り道してシャナイア・トウェインのいつだっ
て買えるアルバムを買ったところだった。

帰宅すると、きみはまだ温かくて、でもちょっとかたくなって
いた。おやじがぼくの名前をだすと、きみはつらいのに尻尾
をはらはらと振ってくれたそうだね。

きみは家族で、そしていちばんの親友だった。きみと出掛け
る散歩がたのしかった。あの町のほんとうのすばらしさを知
ったのも、きみとの散歩でだった。

けれども、ぼく以上にきみは散歩が好きなくせに、夏の盛り
の――七夕祭りの前夜祭の――花火がけたたましく地鳴り
をあげると、臆病なきみは一目散に帰りたがって、テコでも
うごかなかった。どんなにぼくがなだめても、引っ張っても
ダメだった・・・。

いまさらだけど、お礼をいいいたい。

きみが逝ってしまう数日前、寝たきりになったきみのそばで、
「もういちど散歩にいきたかったなぁ・・・」そう漏らすと、きみ
はその夜、弱々しくふるえる脚を必死にふんばって《散歩に
行こう》と、ぼくをうながしてくれた。

だけどきみはもう走れなくて、たよりなくニ、三歩すすむのが
やっとだった。ぼくが泣きながら、せめてきみのお気に入りの
場所へと抱きかかえてゆこうとすると、きみは不機嫌そうな
声をもらしたっけね。

ぼくはその意地がうれしかった。ありがとう。

いまいるナナを溺愛してるけど、それは勘弁してくれ。それで
も、ぼくのいちばんはいつまでもきみのままだということを、
忘れないでいてほしい。

スリムで、さみしがり屋で、両耳がお辞儀しているきみ――
コロへ。またいつか、いっしょに走ろうな。    (相棒より)

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-03 00:00

『ネーサンとほうきの木』<前> (毎週金曜日更新)

おもい病気だった。病名はわからない。
ときどき あたまがいたくなったり、
ベッドから起きあがれないこともある。

ふさぎこんだ。とおくから西へとむかう
貨物列車の汽笛がきこえてくると、
とびのりたくてたまらなかった。

おひさまがきらいだ。いや、きらい
になったのだ。おひさまが いっぱいの
笑顔で「おはよう」とあいさつしても、
その子はしらぬ顔をよそおった。

その子の名は ネーサンといった。
好きなのは 部屋からみえるいっぽんの
木だけだ。 その木の名はビッグ・ジョンと
いった。

ネーサンはおひさまがビッグ・ジョンの
木陰にかくれてしまうと、ようやく安心
するのだった。

いつのまにか眠った。気づくと外は
嵐になっていた。もう、おひさまは
どこにもみえない。けれどもネーサン
の心はしずんだままだ。

ビッグ・ジョンはなぐりかかる雨風に、
身をよじらせている。ネーサンは
ビッグ・ジョンの根っこがもげて
しまわないかと 気をもんだ。

この日、貨物列車の汽笛はきこえなかった。
でも、かわりにきいたものがある。声だ。
ベッドにもぐりこんでいては けっして
きくことのできない ビッグ・ジョンの声だった。
(つづく)

(石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-02-02 20:28


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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