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2005年 06月 22日 ( 2 )

『も』は もみあげ の『も』   by トモッと





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収録が終わってから、意味もなく仙台の夜を走り回るのが好きだった。
生放送のときにはラジオ局のスタッフが録音してくれたMDやカセットテ
ープを響かせて、金曜の仙台の繁華街をかるく二周はしたものだった。

録音のときにはMDやカセットテープで番組を聴くよりも胸が高まった。
なにせ、カーラジオの周波数を自らの手でチューニングするのだから。
収録を終えた安堵とスタジオからひき連れてきた高揚感を助手席に乗せ、
お気に入りの局のお気に入りの番組――「アメリカン・ミュージック・ラン
チ」――のオープニングに耳を澄ませるのだ。

DJの元木さん(旅行代理店支店長。米国カントリー・ミュージック協会
会員)が、ウルフマン・ジャックばりのシワガレ声で仙台市民に遅い挨拶
を投げかけると、かげりを見せかけた仙台の街がもう一度、夜をやり直
そうと活気を取り戻すように思えたものだ。

その親しくもおどけた声が、曲に息吹を与えるきっかけとなり、ボクはその
放送を聴くと車をかっ飛ばしてどこへでも行ってしまえそうに思えたものだ
った。と同時に、ずっとこの街でこの素敵な金曜の夜を幾晩も過ごしたいと
も思ったものだ。

助手席に乗せた見えない影は、彼女や悪友に立ち退きを迫られることもあ
った。けれどもボクは断固としてそれを拒否した。見えない影はボクと信頼
以上のなにかでつながっていたから、後部座席への移動も快く引き受けて
くれたものだ。(そのためボクは帰り道でひとり淋しい思いをせずに済んだ)

ラジオから流れてくる音色は、ボクの部屋でボクのためだけに演るのよりもず
っと、歌うこと、演奏することが愉しくて仕方がないように思えた。彼らの実力
からすれば、より多くの聴衆の前でそれを披露することは当然のことだったし、
彼らを発掘したボクとしても彼らが世に巣立っていくことは自慢であったのだ。

「悲しいときは悲しく、嬉しいときには嬉しくやればいいの」とK.T.オズリンは
教えてくれた。ボブ・ウィリスが彼のバンドに「顔は笑顔であとは死ぬ気で演
奏しろ!」と指示するのを聴いたときには、その誇りに感謝さえした。

ラジオを捻って聴こえてくるのは、聴くもの1人ひとりにとっての慰め、怒り、
歓び、嘆き、哀しみや励ましでなければならないが、わたしたちは、どこかの
ラジオの前で耳を傾けてくれる者たちの心に、そっと笑顔がつたっていくよう
にと細心の配慮を心がけてきたという自負がある。

それをこそ何でもござれだった。結婚式の二次会のパーティ会場からのリク
エストにも、死んだ婆ちゃんへ捧げる曲のリクエストにも即刻対応してみせた
ものだった。

なにより、DJの元木さん、技術の広瀬さん、笑い屋の嵐田夫妻、そして選曲
のボクにとってもこの「アメリカン・ミュージック・ランチ」の収録スタジオのある
(仙台市若林区)土樋へと脚を運ぶことは――帰り道にカーラジオを捻ると聴
こえてくるその日の成果にありつくことは――金曜の夜に酒を傾け合うことより
も、愉しくて掛け替えのないひとときであったのだ。


(『サイドバーン・トリビューン』紙――コラム「失われいゆく種族の詩」より掲載)

 絵=トモッと
 文=石垣ゆうじ
by momiage_tea | 2005-06-22 16:29 | ゆうじ × TOMOt

吉田拓郎さんの『制服』を聴きながら・・・。(6月21日)


『自画像(ポール・ゴーガンに捧ぐ)』――1888年9月(アルル時代)

数あるゴッホの自画像のなかでも、もっとも神経に病んだ癇癪持ち丸出しの表情を
たたえた絵がある。淡水の湖のような乳白色がかった緑色を背景に、うたがい深げ
な顔をした男が――ほとんど坊主頭でオレンジ色の口髭を蓄えて――英和中辞典
の表皮みたいなアズキ色のジャケットに身を包んでいる。

その右目は実直ながらも、己の真摯な行ないの日々にも疑問を抱くしかない哀しげ
な目を、左目は指でまぶたを突っ張らせてるわけでもないのに鋭く尖っていて、自分
を画家として認めようとしない世間への軽蔑と、冷めた眼差しとが同居する、極めて
乱暴な眼差しがあるのだった。

ゴッホはよくも自分を憐れむこともせず、最後までこの絵を描き上げたものだ。そこ
までして自分の仕事に正直であろうとした彼の心情を思うとき、ボクは心にこみ上げ
てくるものを感じて目頭が熱くなる。

さらに涙が零れんばかりの切ない、いや、憂うつな気分に襲われるのは、そのゴッホの
狂気をはらんだ表情とボク自身の顔ツキが――ズバリ一致をみせるときがあることで
ある。「オレもついにここまできたか――」と深い落胆にくれるよりも、自分を平静に保つ
ためにも、「オレもゴッホの域にまでようやく近づいてきたかぁ!」と何だかわからない
明るさで納得してみた方が得策であろうと思う。

しかし、そうやって自分をゴッホ並みに持ち上げてみたまではよかったが、友人から
カル~い口調で、「耳を切らないように気をつけなさいよ!」などと励ましを受けると
胸のうちで「そういうことか」とつぶやくだけで、返す言葉も見つからないのであった。



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■□


          
by momiage_tea | 2005-06-22 00:28 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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