小川町の朝とウォラーの哲学
“人生は、あなたがそれを意義あるものにすることによって
それに意味を与えた場合にのみ意味をもつ。ではどうす
れば人生を意義あるものにできるのか? あなたの内側
のひそかな声が、ある決定的瞬間に「これがわたしだ」と
ささやくとき、その声に耳を傾けることによってである。重
要なのは、そういう瞬間に、自分がやっていることを意識
的に書きとめておき、もっとどんどんそれをやること、実
際、一生それをやりつづけることである。”
(ロバート・ジェームズ・ウォラー、『五十路を超える』)
神田小川町。空が雨を必死に持ちこたえている。眠気覚ましの
コーヒーとブルーベリーのマフィン。それと、朝の栄養に欠かせ
ないのはウォラーの哲学で、一日の始まりの2時間を、カフェの
特等席でゆっくりと過ごす。そのためにわざわざ早起きする。こ
ころが融けてくる。
高校の友人から届いた絵はがきを読み直し、出先で知り合った
女の子にもらったメモへ返信を返す。引越しを間近に控えている
が、なにひとつ片づけは済んでいない。だが、やらなければなら
ないことをリストアップするのは止めにした。煩わしさはひとまず
脇へ追いやることにしよう。
ガラス一枚隔てた交差点を、タテにヨコに、車と人が行き交って
いる。誰もが能面のように無表情だ。慌ただしい日々にせめて
じぶんを取り戻すことを忘れないようにしたい。そうしなければ、
あっという間に人生は灰色に覆われ、ため息に取って替わって
しまうだろう。
あと15分でミーティングが始まる。あと2日でぼくの東京が終わ
る。通いなれたこの街ももうすぐ思い出になるのだ。空がめそめ
そ泣き出した。ぼくはブルーベリーのマフェンの最後の一口を頬
張ると、ウォラーの哲学と一緒に飲み下した。「これがわたしだ」
といい聞かせながら。
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(石垣ゆうじ)
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(絵 TOMOt)
by momiage_tea
| 2007-04-16 23:40
| ゆうじ × TOMOt