朝の滞在 (10月18日)
思い出したように神田小川町の『隠坊』に朝からこもっている。
AM10時半に職場へ行けばよいところを一時間も早起きして
ここへやってきたのは、絵本の原稿書きのためである。
苦味の効いたイタリアンローストの濃厚な香りを嗅いでいると、
それだけで筆も進みそうである――。と、格好つけてはみても、
このカフェーでは何故かいつも注文がスムーズにできず気ま
ずい思いをしてしまうのであった。
“本日のサービスコーヒー”があるのだが、どこの産地なのか
やたらと長いネーミングの銘柄があるようで、黒板に2行に跨
って書かれたひとつのコーヒーを、ボクは異なるコーヒーとす
っかり勘違いしてしまっていた。そういうときに限って連れを同
伴していたりして、「“これ”と“これ”をお願いします」と注文し、
主人を惑わせたこともある。
今朝も「ブレンド!」と一言で済ませようと思ったのに、「いくつ
か種類がありますんで・・・」と憐れそうな店主の眼差しをまた
も受けねばならなかった。あごヒゲを撫でつつボクは、悩み抜
いた挙句「イタリアンローストを・・・」とようやくつぶやくように口
に出すのが精一杯だった。
けれども、ひとり貸切状態の朝のカフェーで恍惚と黄色い灯り
に燈されて、サックスが奏でる狂ったようなジャズの音色に身
を委ねるとき、秋雨に黒ずんだ路地裏の風景がこころに染入る
トゥールーズの思い出にも感じられるから不思議である。明日
もまた、そしたまた明日も――。
(石垣ゆうじ)
AM10時半に職場へ行けばよいところを一時間も早起きして
ここへやってきたのは、絵本の原稿書きのためである。
苦味の効いたイタリアンローストの濃厚な香りを嗅いでいると、
それだけで筆も進みそうである――。と、格好つけてはみても、
このカフェーでは何故かいつも注文がスムーズにできず気ま
ずい思いをしてしまうのであった。
“本日のサービスコーヒー”があるのだが、どこの産地なのか
やたらと長いネーミングの銘柄があるようで、黒板に2行に跨
って書かれたひとつのコーヒーを、ボクは異なるコーヒーとす
っかり勘違いしてしまっていた。そういうときに限って連れを同
伴していたりして、「“これ”と“これ”をお願いします」と注文し、
主人を惑わせたこともある。
今朝も「ブレンド!」と一言で済ませようと思ったのに、「いくつ
か種類がありますんで・・・」と憐れそうな店主の眼差しをまた
も受けねばならなかった。あごヒゲを撫でつつボクは、悩み抜
いた挙句「イタリアンローストを・・・」とようやくつぶやくように口
に出すのが精一杯だった。
けれども、ひとり貸切状態の朝のカフェーで恍惚と黄色い灯り
に燈されて、サックスが奏でる狂ったようなジャズの音色に身
を委ねるとき、秋雨に黒ずんだ路地裏の風景がこころに染入る
トゥールーズの思い出にも感じられるから不思議である。明日
もまた、そしたまた明日も――。
(石垣ゆうじ)
by momiage_tea
| 2005-10-18 23:54
| 石垣ゆうじ