映画『バーレスク』について
田舎のドライブインでスターを夢見ているアリ(クリスティーナ・アギレラ)は、
未払いの給料をレジから奪い取るとあっさりロサンゼルスへと旅立つ。妖艶
なエンタテイメントを売りにするクラブ“バーレスク”に、娘はウエートレスと
してもぐりこむのだった。やがて自らも舞台にあがるチャンスを掴み取ると、
いっきに並みいるダンサーたちを抑えバーレスクの主役へと躍り出る。バー
レスクの経営危機と自身を救ったのは彼女のダンスと、抜群の歌唱力だっ
た。それまで口パクなしで歌えるのは、シェール演じる女主人のテスだけだ
ったのだ。アリの華やかな“ひとり舞台”をテスという重厚感あふれる歌声と
存在力を併せもつテスが当然かつ見事な助演女優ぶりで肉付けしてくれた。
しかし、私がもっともこころ魅かれたのはバーレスクでのステージパフォーマ
ンスではなく、物語の冒頭のドライブインと田舎町の風景だった。アリが働い
ていた店内で流れていたのは現代カントリー界の歌姫ミランダ・ランバートの
歌うカントリーナンバーだった。その曲を背景に、さしこんだ気だるい日差しを
うけ苛立つ娘の、そしてその苛立ちを旅立ちへと昇華させた娘の、とおい過去
になろうとしている黄昏どきの田舎の光景が、ただただ美しく身に染みた。
アーティストとしてのクリスティーナ・アギレラを私はまったく知らないのだが、
この映画を観る限り、彼女は舞台でよりもナチュラル・メイクの普段着の方が
飛びきりかわいらしい。そういえば映画を観終えて残るのも、情熱的でしゃか
りきなミュージカル・シーンでみせた表情より、ルームメイトのジャックを秘め
た想いで見つめていた、あの押し殺すような切ないまなざしだ。ちなみに、そ
のジャックという男は、バーレスクで働くバーテンで、暇があると部屋にあるピ
アノに向かう作曲家だ。いまはミュージカル用の曲を書いているこの男も、か
つてケンタッキーからテネシー州ナッシュビルを目指したソングライターだった。
ナッシュビルは通称ミュージックシティと呼ばれる全米屈指の音楽産業都市
であり、カントリーミュージックの聖地だ。ジャックはナッシュビルのソングライ
ト・コンテストで優勝しているから、映画の設定どおりでいけば、もしかしたら
アリが田舎のドライブインで聴き流していたミランダ・ランバートの歌ったカント
リーソングも、実はジャックが書いた曲だったのかもしれない。いずれ、バーレ
スクを舞台に激しくひたむきに生き続ける娘に、人間の温もりを回復させてや
れるのは、彼女が一度は捨てたカントリーの音色とカントリーのこころを持つ、
ジャックという男だけなのではなかろうか。
■
(文=石垣ゆうじ)
未払いの給料をレジから奪い取るとあっさりロサンゼルスへと旅立つ。妖艶
なエンタテイメントを売りにするクラブ“バーレスク”に、娘はウエートレスと
してもぐりこむのだった。やがて自らも舞台にあがるチャンスを掴み取ると、
いっきに並みいるダンサーたちを抑えバーレスクの主役へと躍り出る。バー
レスクの経営危機と自身を救ったのは彼女のダンスと、抜群の歌唱力だっ
た。それまで口パクなしで歌えるのは、シェール演じる女主人のテスだけだ
ったのだ。アリの華やかな“ひとり舞台”をテスという重厚感あふれる歌声と
存在力を併せもつテスが当然かつ見事な助演女優ぶりで肉付けしてくれた。
しかし、私がもっともこころ魅かれたのはバーレスクでのステージパフォーマ
ンスではなく、物語の冒頭のドライブインと田舎町の風景だった。アリが働い
ていた店内で流れていたのは現代カントリー界の歌姫ミランダ・ランバートの
歌うカントリーナンバーだった。その曲を背景に、さしこんだ気だるい日差しを
うけ苛立つ娘の、そしてその苛立ちを旅立ちへと昇華させた娘の、とおい過去
になろうとしている黄昏どきの田舎の光景が、ただただ美しく身に染みた。
アーティストとしてのクリスティーナ・アギレラを私はまったく知らないのだが、
この映画を観る限り、彼女は舞台でよりもナチュラル・メイクの普段着の方が
飛びきりかわいらしい。そういえば映画を観終えて残るのも、情熱的でしゃか
りきなミュージカル・シーンでみせた表情より、ルームメイトのジャックを秘め
た想いで見つめていた、あの押し殺すような切ないまなざしだ。ちなみに、そ
のジャックという男は、バーレスクで働くバーテンで、暇があると部屋にあるピ
アノに向かう作曲家だ。いまはミュージカル用の曲を書いているこの男も、か
つてケンタッキーからテネシー州ナッシュビルを目指したソングライターだった。
ナッシュビルは通称ミュージックシティと呼ばれる全米屈指の音楽産業都市
であり、カントリーミュージックの聖地だ。ジャックはナッシュビルのソングライ
ト・コンテストで優勝しているから、映画の設定どおりでいけば、もしかしたら
アリが田舎のドライブインで聴き流していたミランダ・ランバートの歌ったカント
リーソングも、実はジャックが書いた曲だったのかもしれない。いずれ、バーレ
スクを舞台に激しくひたむきに生き続ける娘に、人間の温もりを回復させてや
れるのは、彼女が一度は捨てたカントリーの音色とカントリーのこころを持つ、
ジャックという男だけなのではなかろうか。
■
(文=石垣ゆうじ)
by momiage_tea
| 2011-01-06 15:23
| ゆうじ × TOMOt