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映画『木洩れ日の家で』のこと。 (★★★★☆)

91歳の老婦ア二ェラは骨董品のような木造の屋敷に忠犬フィラと暮らしていた。皮肉に満ちた物言い
はウィットに暮らすための人生の秘訣であり、アニェラはきついけれど愛情にあふれた語りをみずから
と、そしてフィラにぶつけてゆく。目を白黒させたり、じっと表情をうかがったり、あるいはまるで意に介
さず刃向かったりしながらも、愛犬フィラがいつでも飼主と真剣な付き合いを守っている姿が健気で温
かい。老婦はときどき双眼鏡でご近所を盗み見るという悪癖はあるものの、木洩れ日の家でフィラとと
もに穏やかな暮らしをつづけてきたのに過ぎなかった。

そんな彼女の余生に波風を立てたのは屋敷を買いたいという隣人からの願い出だった。そんな気は
毛頭ないアニェラは年に二回しか会いに来ないひとり息子を味方につけ、その申し出を退けてやるつ
もりでいた。ところが息子は、こともあろうに自分に有利な契約を締結せんと隣人と密会して裏工作を
謀っているのだった。裏切られたアニェラは愛する息子が自分を侮辱するセリフまで聞いてしまう。家
のあちこちや庭先で、幼い頃の息子の笑顔や若かりしロマンスの記憶が浮かびあがると、威厳と誇り
を失わず生きてきたひとりの老婦は、人生の終焉に訪れた試練にことさら戸惑いをみせるのだった。

全編モノクロで撮影された作品は、アニェラの人生を物語るように陰影に富み、老いてなお輝き溢れ
るうつくしさを湛えていた。明治神宮にそびえる楠(クスノキ)を称した言葉に「樹勢瑞々」というのがあ
るが、撮影当時、実際に91歳だったアニェラ役の女優ダヌタ・シャフラルスカは、まさに「樹勢瑞々」
を体現する見事な演技でわたしたちに爽やかな感動を与えてくれる。ワルシャワ郊外の緑豊かな土
地を舞台に、信ずるべきものと受け継ぐべき価値のあるほんとうのことを教えてくれた稀にみる秀作。
ポーランド風の枯山水とでもいうべき木造家屋の建築美とガラス窓の透明感も一見の価値ありだ。

(次回予告――『カントリー・ストロング』)

『木洩れ日の家で』公式サイト ⇒
http://www.pioniwa.com/nowshowing/komorebi.html

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http://linemen.exblog.jp/

(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-20 23:20 | ゆうじ × TOMOt

映画『ツリー・オブ・ライフ』のこと。 (★☆☆☆☆)

人生は瞬く間にすぎる。ひとりの人間の成長はもちろん、いっぽんの木が育つのよりも早い。太古から
営まれてきた地球の歴史のなかでは人類の歴史は一瞬にすぎない。そうして、人びとの暮らしはあま
りにも早急で、その実進歩がない。天地創造の映像美と50年代テキサスのある家族のドラマとを比較
して、監督テレンス・マリックは執拗にそのひずみを描いてゆく。しかし、その映像は脈々と受け継がれ
てきた生命の営み(=神の仕業?)を信望する敬虔な人間たちを嘲笑うかのようだった。はっきりいって
映画を観るわたしたちは、わざわざミジンコの時代にまで遡らなくとも人類の不幸をしっている。

「リアルで自然なパフォーマンス」を心がけたという監督の手腕は子役たちによって証明されている。し
かし、母親が子どもと戯れるシーンなどは嘘臭い。母親は我が子と両手をつないでくるくると回転して
遊んでいるのだが、映像としては美しく、事実そうした光景が母子の愛情の典型的な表現手段だった
としてもあまりに陳腐な演出だった。昨年日本で公開された映画『脳内ニューヨーク』では、ある脚本家
が自分の頭の中に浮かんだニューヨークの街を舞台化して、それを際限なく肥大させてゆくのである
が、この『ツリー・オブ・ライフ』はテレンス・マリックの『脳内ヘブン』と言い換えることができるだろう。

ブラッド・ピットはブラッド・ピッドである必要がなく、ショーン・ペンはショーン・ペンである必要がなかっ
た。同様に、父と子の葛藤、夫婦間の溝、失われた家族と喪失感といった普遍のテーマが、壮大すぎ
るマリックの『脳内ヘブン』と対峙させるほどの物語性がなかったことも不満の要因だ。母は子どもを
連れて家を飛び出すこともできた。息子は親父に復讐すこともできた。現実の世界(50年代の保守的
なテキサス)ではそれが無理だとしても、映画の世界でならもうひと波乱あってもよかったはずだ。だ
が、それがマリックの「リアルで自然なパフォーマンス」なのだろう。神にうつつを抜かすにも程がある。

(次回予告――『木漏れ日の家で』、『カントリー・ストロング・・・・・・』)

『ツリー・オブ・ライフ』公式サイト ⇒
http://www.movies.co.jp/tree-life/

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(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-19 00:00 | ゆうじ × TOMOt

映画『モールス』のこと。 (★★★★☆)

いじめられっ子少年オーエン(コディ・スミット=マクフィー)の愉しみは二階の部屋から近所を盗み
見ることだ。内向的な彼の性格はしかし、独りきりのこの部屋で大胆に解放される。あるとき、いつも
のように外を眺めていると、父親と思しき男をしたがえた少女が、アパートの隣室へ越してくるのが見
えた。ニューメキシコの雪の夜、その少女アビ-(クロエ・グレース・モレッツ)の足許は裸足だった。
小さな町での出逢い。それぞれに苦悩を抱えた少年と少女はそっと魅かれあい、親密さをましてゆく
のであったが、町では猟奇の連続殺人が頻発しはじめていた。

アパートの敷地内にある遊技場が少年と少女の出逢いの場所だ。オーエンは女の子にいう。「きみ、
変わった匂いがするね」と。そして「裸足で寒くないの?」と。アビ-は居たたまれない表情で「寒さは
感じないの」と応えるだけだった。けれども、翌日現れた少女はロングブーツを履いていた。シャワー
でも浴びてきたのか「きょうも変な匂いがする?」と訊ねるのだった。聞かれてオーエンは「いいや」と
首を横に振った。影響を受けたのはオーエンもおなじだ。学校でいじめられたことを白状すると、アビ
-は「やり返さなきゃ」と少年を鼓舞し「わたしが守ってあげるから」といった。

ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングが「この20年で#1のスリラー」と絶賛したのは、恐怖とい
うよりも、この映画が人間の感情をしっかり描いていたからだ。ある青年を襲おうと車のバックシート
に忍びこんだ男は、予定外に青年の友人が助手席に乗り込んできたために逆に恐怖を味わう羽目
になる。そのときマスクからのぞく殺人者の戸惑った目の動きが、キングを喜ばせたはずだ。とはい
え、ベテラン俳優が脇をかためながらも、オーエンとアビ-を演じた二人の若い俳優の活躍なくして
この映画の成功はなかった。特にクロエ・グレース・モレッツは唇ひとつで演技ができる名女優だ。

(次回予告――『ツリー・オブ・ライフ』、『木漏れ日の家で』・・・・・・)

『モールス』公式サイト ⇒
http://morse-movie.com/

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(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-18 21:09 | ゆうじ × TOMOt

映画『お家をさがそう』のこと。 (★★☆☆☆)

コロラドからアリゾナ、ニューメキシコ、ウィスコンシン、モントリオール、マイアミそしてサウスカロ
ライナと旅をつづける30代半ばの夫婦。妻はお腹に子どもを宿しているのにちっとも幸せそうでは
ない。それどころか生活がままならず、先行きの不安と焦りを隠しきれないでいる。旦那は楽天家
であっても、旅先での就職活動もうまくいかない頼りない男だ。しかし、ユーモアだけは失わず、腹
の大きくなった妻に彼流の愛情を注ぎながら静かな旅を行く――まるで転がり草みたいに。

孫の顔よりも新天地での暮らしが大事な両親、夫も子育ても投げやりで美人なのに女であること
にも捨て鉢な元上司、コミューンかぶれの変人と化した幼なじみ、妻に逃げられひとり娘を前にう
ろたえる兄、恋人を信じ切れないでいる妹との再会、幸せそうな家庭を築いていそうなのに赤ちゃ
んを授からないことで心に穴があいている同級生・・・・・各地で出会った懐かしい顔ぶれと数々の
出来事。そこで夫婦が得たものは何か。そして辿りついた土地で見つけたものとは。

彩り豊かな登場人物たちの個性に反してか、あえて移動する視線は(シンガーソングライター)ア
レクシィ・マードックの楽曲による、モノトーンな世界観によって抑制された空気に満たされている。
それが、薄日は差すけれど一日中くもり空というなんともすっきりしない重苦しい感情を抱かせて
しまうのだった。心を解き放てないロードトリップほど厄介なものはない。幸い物語はハッピーエンド
の結末を迎えるのだが、ためらいがちなゴールは夫婦で走るマラソンを想わせた。

(次回予告――『モールス』、『ツリー・オブ・ライフ』・・・・・・)

『お家をさがそう』公式サイト ⇒
http://www.ddp-movie.jp/ouchi/index.html

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(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-17 00:00 | ゆうじ × TOMOt

映画『コクリコ坂から』のこと。 (★★★☆☆)

東京オリンピックを目前に控えた63年横浜。その小さな港町の風景と佇まいは、「ファンタジックな
要素を排した」とはいえ、極めて幻想的なまでの美しさを描いている。はたして、その当時の夕やみ
せまる商店街のにぎわいは、文化部室のはいった取り壊し間近の洋館は、小高い坂の上から見や
る海洋は、あれ程までに美しかったのであろうか。

大人になりかけている少年と少女は、兄妹であるかもしれない事実をしりながら、それでも互いの
気持ちを育んでゆく。うちに秘めた想いが口をついてでたとき、ふたりは一生涯背負い続けなけれ
ばならない重荷のその重さをまだ知らなかったのだと思う。それ故に、自分の心に忠実なふたりは
危ういながらの美しさをこれでもかと輝かせているのだった。

豊かな記憶がそうであるように、色褪せた父親の写真も、汗と埃にまみれた部室と冴えない男子校
生たちの情熱も、排気ガスの溢れた渋滞や高度成長期に沸きたつ都会の喧騒も、きっとそれらは
美しかったに違いない。そこにいるはずもない父親の姿を探すようにして海をみつめていた少女の
ように、その頃にはまだ、人の心をみつめて暮らしていた人びとがたくさんいたのだろう。

(次回予告――『お家をさがそう』、『モールス』・・・・・・)

『コクリコ坂から』公式サイト ⇒
http://www.kokurikozaka.jp/

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(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-16 09:28 | ゆうじ × TOMOt

映画『メアリー&マックス』のこと。 (★★★★★)

オーストラリアに住むいじめられっこの少女とニューヨークで引きこもりの生活を続ける中年男との、
文通を介した二〇年に渡る心の交流を描いたクレイアニメ――。パーフェクトといってよいこの映画
にあえて難癖をつけるなら、メガネっ子の冴えない少女だったメアリーの声だ。幼いメアリーの声に
は自我が芽生え、ある決意を宿したいじらしいかわいらしさが漂っていたのだが、成長するにつれ、
素っ気ないどこにでもいるひとりの大人の女性の声に変貌を遂げてしまうのだった。はじめその声
(トニ・コレット)の人選に疑問を抱いていたものの、ひとりよがりな内容の本を出版し、大切な文通
相手を傷つけてしまったメアリーの在りようが、現実味を帯びたその声によって、大人であることの
哀しみを嫌でも突きつける狙いがあったのだろう。そう思うと合点がいく。

かたやマックスの声の主はアカデミー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンだ。彼が頭抜けた才能
をひろく知らしめる前に撮られた映画に『ハピネス』という作品があり、彼はそこでなんの釣り餌もな
いテレフォンセックスで自分を慰めるだけの気味の悪い中年男を演じている。本作のでっぷり太っ
て精神を病み、涙を流すことができないマックスという役柄はまさにはまり役であった。ひとりであ
ることの限界と、人と関わることで生じる心の弊害を描いて、それでも他者へのやさしさが自分を支
え、生かしさえするのだという人生のかくれた真実がここにはある。アルコール中毒の母親、ド近眼
で世話焼きの隣人、空想のなかの友だち、どもり屋のお向いさん――個性的な脇役たちにも目が
離せない、専門誌や世間でもっと語られるべき名作だ。

(次回予告――『コクリコ坂から』、『お家をさがそう』・・・・・・)

『メアリー&マックス』公式サイト ⇒
http://maryandmax-movie.com/

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(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-08-15 00:21 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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