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Sooner or later 2


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TOMOt
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by momiage_tea | 2007-07-15 02:05 | TOMOt

Sooner or later














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TOMOt
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by momiage_tea | 2007-07-15 01:44 | TOMOt

『ヨゼフ物語』⑥

  封を切るまえからヨゼフにはその手紙のさいしょの一行が見えるようだった。
  「さて、いよいよ物語がはじまりました――」きっと書き出しはこんなだろう。
  ときめくこころとは裏腹に胸さわぎも感じる。ヨゼフはなにやら妙な気持ちに
  なるのであった。

  けっして悪いしらせや不幸の手紙のたぐいではないことがヨゼフにはわかっ
  ていた。その宛て名のおもむきとパラフィン封筒の手ざわり(しかも半透明!)
  は、夢を夢で終わらせない、魔法がかった演出をあらわすのに十分すぎる
  効果を発揮していた。

  ヨゼフはいなないた。つづけて武者ぶるい。そうしてソファから立ち上がると、
  本棚のまんなかに飾り用としておいていた『リンダ』という名のウイスキーを
  手に取らずにはいられなかった。顔に似合わずロマンチストのヨゼフだった
  が、ここは流暢にグラスなどかたむけている場合ではない。手近な湯飲み
  に指三本ほどのウイスキーをそそぐと、ていねいに匂いを嗅ぎこんだ。そし
  て琥珀色の液体が生きてきた15年の歳月を思ってヨゼフは感謝した。
 
  「さてと、どんな物語がはじまるのか拝見してみようじゃないか」
  ヨゼフはチーズ兼、くだもの兼、封筒・・・つまり万能ナイフを握り締める
  と、魔法が逃げてしまわないようにそっと封を切った。

  アメリカはオハイオ州デイトンの老舗メーカー、ミード社製の便せん。よこ線
  のひかれた淡いよもぎ色の便せんはしかし、これといってこころをおどらせる
  ものではなかった。だが、そのさり気なさがかえって差出人のこころ意気をあ
  らわしているようで好感がもてるのだった。

  文字は手書き。ふかいブルーのインクを使って書かれていた。万年筆で書か
  れたのだ。


    ヨゼフ様

    どうぞ誘わないで下さい。
    ゆきたいのはやまやまなのです。
    でも、わたしにはやらなければならない仕事が
    たくさん残っているのです。
    いまそいつをやっつけてしまわないと、
    わたしは本物のおくびょう者になってしまいます。
    わたしはわたしの人生から脱落するなど
    まっぴらごめんなのです。

    どうぞお気をわるくなさらぬように。
    またお手紙します。

    
   ヨゼフはその差出人をどこかへ誘ったおぼえなどなかった。そもそも差出人
   がどこのだれかさえ思い浮かばない。
   「なんて奴なんだ」ヨゼフはいった。「うす気味悪いったらありゃしない」
 
   ヨゼフは狼狽した。そしてあれこれ思案をくりかえしたあげく、この手紙の
   差出人は「作家」であると結論づけた。そうして文面をもう一度ゆっくり読
   み返すと、この差出人は、なにがしかの誘惑に負けることで執筆中の作
   品が頓挫してしまうことをひどくおびえているのだと思った。ヨゼフはその
   「作家」の顔に強迫観念のような苦悩がにじんでいるのが見えるような気
   がするのだった。
   (つづく?)
   ■
   (文=石垣ゆうじ) 
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by momiage_tea | 2007-07-06 17:06

『ヨゼフ物語』⑤

 猛烈なダッシュでクモの巣をかいくぐり、ヨゼフは郵便配達夫の視界から
 一目散に逃れた。サッカーの試合のあとにもっとも必要なもの、それは栄
 養でも休息でもコーチの講釈でもなく、ただただ熱いシャワーなのだった。

 とおのむかしに第一線を退いているヨゼフに、熱いシャワーのでる更衣室
 を備えたクラブハウスが待ち受けているはずはなく。靴下も替えぬままの
 ヨゼフは、自宅へと戻ってきたのだった。

 熱いシャワーで汗と泥と日々の暮らしの苦悩をごしごし洗い落としてやっ
 てから、ヨゼフはタオル一枚を腰に巻きつけたかっこうで、勝手口に出て
 きたところだった。「おひさまのほかにだれがおいらにかまうというんだい」
 心地よい疲れと解放感につつまれてヨゼフはふと、郵便受けになにか届
 いてないものかとさぐりを入れるのであった。

 ヨゼフのあたまでは、ちょうどじぶんがシャワーを浴びているそのあいだ
 に郵便配達夫がやってきて、そして去って行くという計算なのだった。
 ところがいま、ヨゼフは涸れ井戸のかげに身を潜めて、ようやく安堵の
 ため息をついているという始末。

 ヨゼフは思うのだった。「じぶんが全知全能の神だという確信のもてぬ者
 は、たとえ人間よりもカエルの数のほうが多いような片田舎で暮らそうが、
 はだかにタオル一枚の出で立ちでそとをうろついてはならない」と。

 ヨゼフは土豪に身を隠す兵士の思いで、よくよく耳をそばだてた。そうして、
 郵便受けに「トンッ」と手紙のおちるなんともいえず胸のすく音色を聞き取
 るのだった。そのままヨゼフは身じろぎもせず、郵便配達夫がとどこおり
 なく任務を遂行し、自転車のブレーキをきしませて坂道をくだってゆくのを
 待ち過ごした。

 カラスどもにその一部始終を観察されていたともしらずに、ヨゼフはようやく
 その場から立ち上がると、一番人気のG1ホースのように優雅な歩調をいい
 聞かせ、みずからに手綱をひいた。はやる気持ちをおさえてそっと郵便受け
 に手を差し入れる。

 「ビンゴ!」指先から、そして掌から、いかにも束といったずっしりとした感触
 が伝わってくる。(郵便物には輪ゴムがかけられていた)

 郵便物はみなで四通。さいしょの一通はその味気なさのうちに恐怖と憎しみ
 をいだかせずにはいられなかった。「まぎれもなく税金の督促状だ!」とヨゼ
 フは思う。あとにまわす。二通目は“おめがねにかなったお客さま”にだけ届
 けられためがね屋のダイレクトメール。三通目にいたっては国宝級の“お城
 の内部を撮影した貴重な写真”を売りにした百科事典の案内書であった。

 「まったくもっての紙のむだ使いだ」そう吐き捨てたヨゼフだったが、ここまで
 くると焦りと期待から熱病にうなされる思いなのであった。そうしてようやくさい
 ごの一通をおもてにすると、「ヨシッ!」と歓喜の叫び声をあげるのだった。

 イタリアのスコス社製。地中海ブルーのパラフィン封筒には、しっかりと「ヨゼ
 フ・ムイナルチク様」と宛て名が書かれていた。ヨゼフは思わずうっとりせずに
 はいられなかった。しかし、じぶんが肌にタオル一枚しか身につけていないと
 いう、緊急事態が発生したらもっとも適応困難な姿でいることにやっと気づい
 たヨゼフは、お天とさまにひとつ侘びをいれると、差出人を確認することもなく
 部屋へと戻ってゆくのだった。

 ヨゼフは居間のソファにどっかり身をしずめしげしげと封筒をながめやった。
 だが、封筒のどこにも差出人の名まえも住所も記されてはいない。

 切手の絵柄をみると山高帽子をかぶったひどく時代おくれなマジシャン風の
 男が、胸まである口ひげをたくわえ――肖像画に描かれる人物に特有の方角
 を向いて――そこに佇んでいた。それはもう意味ありげな面持ちだった。

 消印はいちおう押されていたものの、18時から24時に処理されたことのほか
 は、印がかすれて判別がつかなかった。
 (つづく)
 ■
 (文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-07-05 13:48

『木もれ日のしたで』<後編>

  ブショーはしっかりと根をはってみせた。
  幹をふとくして、枝をはりめぐらす。
  葉っぱはこれでもかとばかりに生いしげらせた。

  それはほんのつかの間のできごとだった。
  セトモンが窯の番にくたびれて、
  ついうつらうつらとしたそのいっしゅんのことだった。

  あけの明星がうすらいで、
  はやおきのことりたちがいっせいに「ちっち」とさえずりだすと、
  セトモンのはなっつらをくすぐるものがいた。

  はっとしてセトモンが目をあけると、
  雨ざらしの窯のすぐわきには、たいしたいっぽんの巨木がたっていた。

  『どうだい、じゅれい400年のアケボノスギにだって負けないりっぱな木
  じゃないか』
  そういってセトモンは、じぶんのはなっつらをくすぐる枝葉とあくしゅした。

  そのたいしたいっぽんの巨木の名を、セトモンはしらなかった。
  けれども、窯を雨や風からまもってくれる屋根のような巨木を、
  セトモンはすぐにも気にいってだいじにした。

  巨木のそばからはなれようとしない、
  誠実そうな番犬の目をしたいっぴきの犬もまた、
  セトモンは気にいったのだった。

  『きみは平和主義者だろう。ぼくにはわかるんだ。
   そうだ名まえはトトがいい。どうだねトト?』
  セトモンがそういうと、誠実そうな番犬の目をした、平和主義者のトトは、
  『うぉん、うぉん』
  と、ふたつへんじをしてみせた。

  ほどなくしてセトモンは、陶器のようにうつくしい女と恋におちた。
  巨木のしたで木もれ日をうけながら、ふたりは夢をさかんにかたりあった。

  そのかたわらで、トトはそっと寝たふりをよそおって、
  セトモンと陶器のようにうつくしい女の会話をぬすみ聞きしていた。

  《こいつはにぎやかになるぞ》
  トトはおもった。そしてそれが現実のものとなるのにそう時間はかからな
  かった。
  それこそ街からいっしょにやってきた男が、
  巨木になっちまったみたいにはやわざだった。

  わかい陶器職人と陶器のようにうつくしい女とのあいだには、
  めでたくふたごがたんじょうした。
  男の子と女の子のふたごだった。

  木もれ日の愛情にはぐくまれ、ふたごはすくすくと成長した。

   
  やがて、
  セトモンの妻は「ひみつの森」を夢みるようになった。
  そうして草花の手いれにいそしむ女のそばでは、
  ふたごの息子と娘がはしゃぎ声をあげてかけずりまわるすがたがみられる
  のだった。

  そんな光景をながめながら、
  ついにセトモンは、妻にもおとらぬ世界一うつくしい花びんをやきあげた
  のだった。

  でも、セトモンはその花びんをこしらえたそばからきめていた。
  『この花びんはだれにも売らず、妻が育てたクレマチスの花をかざろう』と。

  それからもわかい陶器職人はつぎつぎと傑作をうみだした。
  はるかとおい国の王さまからも注文がはいるほどだった。
  それでも、
  セトモンにはなにか足りないものがあるような気がしてしかたがなかった。

  あるおだやかな昼さがりのことだった。
  たいしたいっぽんの巨木のしたで、セトモンはトトのむなもとをさすりながら、
  愛するうつくしいわが妻と、ふたごの息子と娘とをみつめていた。

  『ようやくわかったぞ!』
  おもわずセトモンは声をあげていた。

  目のまえにしなだれていた枝葉がざわわとゆらめき、
  トトは『うぉん、うぉん』とふたつげんきにほえると、
  しっぽがちぎれてしまいそうなくらい尻をふってみせるのだった。

  さっそく仕事にとりかかったセトモンの顔には、
  これまでにない情熱と精気がみなぎっていた。
  《きっとあすの朝には、チェスの駒ほどもみごとな作品がやきあがるぞ!》

  セトモンは夜が明けるのが待ちどおしかった。
  あすになれば、声をあげてかけずりまわった息子と娘が、
  できあがった水飲み場をはさんで、
  そのかわいたのどをうるおすことだろう。

  そうしてわかい陶器職人と陶器のようにうつくしい女は、
  木もれ日のやわらかな日ざしをうけながら、
  そっとしずかに笑みをかわしあうのだろう。

  あたりはまだ闇につつまれていた。
  けれども巨木のいちばんてっぺんからは、
  東の空がまどろむのがみえはじめているのであった。
  ■
  『木漏れ日のしたで』から改題および改編。
  (文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-07-04 16:21

『木もれ日のしたで』<前編>

  ひとりの男がもどってきた。
  この土地でうまれ育った男が。
  男の名はブショーといった。

  ブショーがたちつくしている草むらにはかつて、
  りゅうりゅうとした木々がたちならび、
  ふかふかの芝がひろがっていたのだった。
  ブショーはこの場所を「ひみつの森」とよんでいた。

  「ひみつの森」の奥には、おおきな屋敷がぽっかりとたっていた。
  けれども、その屋敷はもうない。  
  舞踏会のはなやかな衣装も、情熱的な汗と香水のかおりももはやなく、
  老主人と、むく毛の番犬のすがたもいまではみられなくなっていた。

  ブショーはかぶりをふった。
  『なんていうことだ。もうここには「ひみつの森」も、  
  「ひみつの森」へしのびこむためのレンガ塀も、
  それに、かわいたのどをうるおしてくれる水飲み場すらないではないか』

  ブショーはもういちどかぶりをふり、ふかぶかとした夜がくるのをまった。
  ブショーは街からつれだってきたノラ犬のトトを相棒に、
  おつきさまにてらされて、夜露にしめった草むらへともどってきた。

  だがしかし、そこには「ひみつの森」はなかった。
  屋敷も、レンガ塀も、水のみ場もやっぱりなくなっていた。
  それでもブショーとトトは、闇のむこうで灯りのともっているのをみのがさな
  かった。

  ブショーとトトは、灯りをめざしてかけだしていた。
  みるとその灯りは、こうこうと燃えさかる炎なのだった。
  『屋敷が朽ち果て、なおものこったのがこの厨房だったというわけか』
  ブショーはこうふんをおしとどめるようにしていった。

  しかし、いまその厨房の窯でやかれているのは肉でもパンでもなく、
  ひとりのわかい陶器職人のつくる、そまつな花びんなのだった。
  そのわかい陶器職人は名をセトモンといった。

  ブショーはしばらくセトモンのようすをみまもることにした。
  そうしていつのまにか、かぼそい枯れ木のしたで
  トトと身をよせあうようにしてねむりにおちていった。

  《ほんのひとむかしまえには・・・・・・》
  と、あさいねむりのなかでブショーはひとりごちた。

  《おさななじみや学校のなかまとつれだって、
   ぼくらはあの「ひみつの森」を朝な夕なにかけずりまわったものだ》

  《さいしょは息をひそめていたけれど、しだいに声はうわずり、
   やがてぼくらのはしゃぎ声は、あの屋敷にもとどいたことだろう》

  《それでも、
   むく毛の番犬は、はなからぼくたちをとりしまる気はなかったみたいだし、
   老主人もぼくらをとがめたことなどいちどたりともなかったものだ》

  《きっとあの老主人はしっていたのにちがいない。
   「この庭にかかせないのは沈黙で、
    それよりももっと大切なものは沈黙をうちやぶる
    子どもたちのはしゃぎ声なのだ」と》

  この土地でうまれ育った男、
  ブショーはじぶんでも気づかぬうちに涙をこぼしていた。

  そうして失われてしまったものが、「ひみつの森」へしのびこむためのレンガ塀
  やかわいたのどをうるおしてくれる水飲み場や、
  むく毛の番犬のすがたばかりではないということをさとった。

  なかんずくブショーは、少年の日のむじゃ気なはしゃぎ声を
  なくしてしまっていたのだ。

  ブショーは、
  ほんのひとむかしまえにこの土地からとびだしていった
  ひとりのわかものだった。
  しかし大都会の地面はこちこちにかたくって、
  ブショーがそこへ根をはるすき間はこれっぽっちもなかった。
  やがてブショーのこころは栄養をなくしてこりかたまってしまったのだった。

  《土地への愛着は、
   どれだけこころの視野のひろがりをその土地にもてるかなのだ。
   どれだけこころをゆるせるかで、ひとはその土地にずっしりと
   根をはることも、どこかに風にふかれることだってできるのだろう》

  はたしてブショーはこの土地に、少年の日々をすごしたふるさとに、
  根をはりなおすことをじぶんにちかいなおした。
  すると、
  こちこちのこころがスッとときほぐれるのを胸のおくにかんじるのだった。

  ブショーも相棒のトトもねむりからさめていた。
  ブショーはトトのむなもとをさすりながらいった。
  その声は「めらめら、ばちばち」と燃えさかる炎のいさましさにかき消され、
  わかい陶器職人にはきこえなかった。

  『トトよ、この土地には子どもたちのはしゃぎ声がたりない。
   さっそくとりもどそうじゃないか!』
  
  (後編へつづく)
  ■
  『木漏れ日のしたで』より改題および改編。
  (文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2007-07-03 15:34

『裸婦像と猫』

  公園にはいくつかの彫刻がたっていました。
  
  そのどれもが裸の婦人でした。風呂あがりなのか髪をかきあげる
  仕草の像や両手を頭のうしろで組んで、裸体を惜しげもなくみせつ
  ける像、それに、ベンチの端っこにちゃっかり腰かけて遠くを見つめ
  ている像もありました。

  その公園は人間よりも猫のほうが多く訪れました。訪れたついでに
  そこが気に入って住み着いた猫もたくさんおりました。そんな猫は
  たいてい人間に捨てられた猫なのでした。

  それでも、夕暮れの時刻になると人恋しくなるのか、人間不信の猫
  たちは裸の婦人の銅像になつくようにしてあつまってくるのでした。

  ほとんど無口な猫たちでしたが、まだ幼いのや、おとなでも人間に
  飼われたのがながい猫は、ときに淋しさのあまり「ミャーミャー」、
  「ニャーニャー」とあまい鳴き声をもらしました。

  すると感傷に浸ることのなかった猫のうちでも、とりわけ人間から
  「ミャー」とか「ニャー」と呼ばれていた何匹かの猫が、じぶんの生い
  立ちの不幸やすっかり忘れていた荒んだ生活を思いだして、あたし
  は「ミャーよ」、おいらは「ニャーよ」と誰ともなく訴えかけるようにして
  鳴くのでした。

  その声があまりにも哀調切々とした感じをはらんでくるうつくしい夕
  闇には、人知れず涙をこぼすこころやさしい銅像もありました。

  そんな彼女たちの気持ちを知ってか知らずか、雪のふる季節になる
  と寒がりのはずの猫たちは当番を決め、日替わりでえり巻きやひざ
  掛けの代わりを勤めて裸婦像をあたためました。

  そんなつつましやかな公園に、どっと人間たちがかけこんできました。
  それは蒸し暑いある夏のことでした。人間の世界では戦争がおきてい
  たのでした。

  どこかの国の飛行機がやってきて、通りすぎるわけでもなくこの町の
  空を黒々と覆いつくしたかと思うと、てんでに爆弾を投下しました。

  町のいたるところで大火事が発生しました。公園のすぐそばにまで火
  の粉は押し寄せていましたが、炎や煙や割れたガラスから逃れてきた
  人間たちで、公園はごったがえしているのでした。泣き叫ぶ者や倒れ
  たままピクリとも動かない者もいました。

  裸の婦人たちは、そこに微動だにせずいつものように佇んでいました
  が、その目には怒りと悲しみの涙が滲んでいました。

  猫たちは公園のすみに一匹残らず寄り固まって、ただこう鳴くことしか
  できません。「ノー・ウォー!、ノー・ウォー!、ノー・ウォー!」

  けれども、猫たちの声に耳をかす人間はひとりもありませんでした。
  ■
  (石垣ゆうじ) 
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by momiage_tea | 2007-07-02 17:03

『5分間走』

  幼稚園のときから一度もクラスを離れたことのないマサとは親友だ。
  親友でありながら、幼年時代をあれほどちがう友達と、ちがう遊びを
  して過ごした親友も珍しいかもしれない。

  マサのやっているサッカークラブへ入団したのもマサではないべつ
  の友達の影響だった。マサはいつもぼくを誘ってくれていた。それを
  断り続けたのはぼくのほうだった。。

  けれども、仲のいい友達のある二人がこぞってサッカークラブに入
  団すると聞き、取り残されるのを恐れるようにして始めたのがぼくと
  サッカーとの出逢いだ。

  小学校の放課後、居残った教室からたまにサッカークラブの練習を
  眺めていたものだ。最後の締めの5分間走を走るマサの姿をしって
  はいたものの、ぼくには弱小チームとして名高いそのサッカークラブ
  の練習が拙いものに思えてならなかった・・・・・・。

  じっさいに入団して蹴ったボールの感覚は覚えていない。だが、校庭
  のあちらで正規の練習に励んでいるマサの姿を尻目に、一緒に入っ
  た三人の素人がこなした別メニューは、究めて基礎的なものでありな
  がら、愉しい思い出として胸に残っている。

  初心者が三人いたということは、10歳の少年のこころの大いな慰め
  となった。その当時のチームは20名にも満たなかったが、上級生は
  もちろん、下級生もしっかり在籍していたからだ。

  幼い頃からカラダの大きかったぼくにとっては、歳下のサル顔をした
  チビ助にまったく歯が立たないという事実は自尊心を傷つけるのに十
  分なできごとであった。しかし、それがひとりではなく三人いると思うと
  気分はだいぶ楽になるのであった。

  5分間走で遅れをとったのも三人だった。クラブに入団したその日に、
  コーチの目の届かないであろうトラックの第三コーナーのあたりで、
  三人はいきなり退団をほのめかしたものだ。そうして、吹き出した。

  笑いを堪えながら走ることがどれだけつらいことかを、そのときはじめ
  てしったのだったと思う。

  5分という時間をものにするまでのしばらくの間、マサは必ずゴール地
  点で先にぼくらの到着を待っていた。けれども、憎たらしいとは思わな 
  かった。 そこにはうれしそうに二人の仲間と、ひとりの親友を待ち受け
  る、微笑みを浮かべたマサがいた。
  ■
  (石垣ゆうじ) 
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by momiage_tea | 2007-07-01 15:07


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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