堀江敏幸著 『郊外へ』 

 
堀江敏幸との出逢いは、気分を刷新するためにわざわざ訪れた見ず知らずの
街での一日みたいにさもないものなのだった。けやき並木の通り沿いにある立ち
読み専門の書店で、それらの日々の償いとして買い求めた一冊は、気持を集め
て接しないと取り留めのない言葉の羅列になりかねない危険を孕んでいた。

けれども、いきなり「レミントンポータブル」という殿堂入りのタイプライターの名を
冠した巻頭エッセイが物書きであるわたしをしかとそこに引き止めて、やがてパリ
周辺へとのびる眼差しを編んだ『郊外へ』(白水Uブックス)というタイトルの通り、
あてどない逍遥をたしかな散策図へと形どって行くのであった。

それは観光のためのお気楽なマップではなく、あくまで「雪が舞い散る直前の午後
や、終日つめたい雨が降りつづいた日暮れどきになるときまって外を歩きたくなる
奇妙な性癖」を持つ著者の歩みによって綴られた短編集なのであって、こうした日
本語の喜びとでもいうべき書物に内包するマグマが、わたしたちのなにげない日常

に彩りをもたらしてくれるのだが、堀江敏幸の言葉の枝葉はなんと濃い陰影を宿し
ながらも木漏れ日のごとく明るいのだろうか。わたしが樹を見上げて夥しい悲しみ
を感ずるのとは大違いで、彼がつくるいっぽんの木陰にはけっして鮮度を失うこと
のない矜持が揺らめいているのである。

(文=いしがきゆうじ)
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by momiage_tea | 2009-07-05 00:14 | ゆうじ × TOMOt


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