日曜日には


金がないと「ああ金がない」としか書けない。――空はあおく、海はひろい――などと
いったあまりに率直な詩のように、深遠さとは別物の、ひどく短絡的で浅ましさすら
覚える物言いでもってでしかわたしは言葉を紡げない。おなじ金がないのでもジョー
ジ・オーウェルの手にかかるとこうなる。“明日一日、煙草なしで過ごすことを思うと、
彼は心が萎えてしまった。”(――『葉蘭を窓辺に飾れ』)

削るものがない文章が一概にいいとも限らないのだ。「ああ金がない」ではあまりに
埒があかないではないか。「ああ金がない」という嘆き節には気分がない。そして才
能もない。あるのは悲観とおこがましさだけだ。金がないということですべてが否定
されて当然といった世界に映り、そのあとに続く語句はどんなものであれ言い訳に
しか育たなくなる。わたしは今のいままで育たない苗木にせっせと水をやっていた
のだ。どうりで芽が出ないはずだった。

わたしが手紙を書かなくなって久しいのはそれらが結局は自分自身に宛てて書かれ
た手紙であることに気づいてしまったがためだった。同情を誘うような言葉を書き連ね
てわたしは、遠く離れた友人知人を巻き込んで独り身の寂しさを紛らわしていたのだ。
そうした不甲斐なさをまたしても悟ったところで今度は書く手を緩めるわけにはいかな
かった。むしろ手綱を握りしめて我がケツにこっぴどく鞭を入れなくてはならない。

そのようにして六月は過ぎて行くはずだった。ところが今日は日曜日で憎むべき素人
の日だった。しかも完成した七月のシフト表にはさらに土日の休みが増えていた。土日
に休まなくてならないなんて、糞だ! きっとわたしの販売員としての手腕に疑問符が
付けられたのだろう。わたしのような愛想なしの店員は週末のシフトから外した方が売
上は上がるに違いなかった。

この梅雨の晴れ間の日曜日のなんたる能天気なことか! それでいてひとけのない
広瀬川の川べりにはどこか気忙しさすら漂っているではないか。土日になると金持ち
も貧乏人もかまわず買い物をする。人びとが急騰するガソリン代をケチっていたのは
ほんの数カ月前のことなのに。そのくせいまではETCを搭載した車に乗って郊外に向
けてひた走っている。喧しい音楽を車窓から垂れ流し、いきがってスピードを上げてゆ
く。そして渋滞!
 
わたしはわたしで休日の平穏さに耐えきれず山から下りてきて、駅前やアーケードで
烽火をあげる素人たちの火の粉がこの身に降りかからないように細心の注意を払いな
がら、閑散としたオフィス街のカフェで日曜日に紛れているのであった。こうした場所で
ひと目が気にならないということはひと時もなかった。わたしはひとりの人間として誰か
に語って聞かせるほどの物語の持ち合わせもないまま、この街から何かを搾取され続
けていた。

実際のところ、市民税の納付書の束が送られてきたところだった。わたしはメモ書きに
せっせと資金繰りの計算を書きつけてはそのつど無駄のない暮らしぶりからさらに脂肪
を削ぎ落としてやらなければならなかった。さながら真夏の炎天下にサウナスーツを着
込んで走り込む体重オーバーの拳闘士のようであった。しかし、わたしにはボクサーを
リングに向かわせるための闘争心が備わってはいなかった。

スモーキーマウンテンの職場の連中には海があったし山があった。そこで彼らは有り
余る体力を使い果たしてしまいながら、清々しい疲労感と充足感を味わっていた。そう
して翌朝、スモーキーマウンテンの軒先を潜るときには慎ましやかな意義を感じること
さえあったはずだろう。だが、わたしを待ち受けているのは地方都市の客入りも散漫な
カフェのテーブル席だけだ。愚かしいチェーン店だ! しかもそうしたカフェを日に四軒
もはしごすることすらざらにあった。

サーファーたちは波が良ければ四時間も浜辺に戻らずそれで平気な顔をしていたもの
だ。それで足が攣りそうだのと笑顔で話して歓楽街へも足を向けるだけの余力があった。
こいつらは完璧な阿呆だと思うことが度々あった。けれども、考えてみればひと目を気に
しながら背中を丸め、四軒ものカフェを練り歩いて、気むずかし顔で読んだり書いたりし
ているわたしの方が度しがたい阿呆なのだった。わたしは飲みたくもないコーヒーを人質
に、客を追い出すためにキツくした冷房に晒され続けていた。どうりで蒼白く陰険な面構え
になるはずである。頑なで卑しい作家先生はまだこの境遇にしがみついていなければな
らなかった。

(文=いしがきゆうじ)
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by momiage_tea | 2009-06-28 22:09 | ゆうじ × TOMOt


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