ウイスキーとラジオ ⑤

 
波長というものは計り知れず、ラジオの周波数みたいにビタッとくるときも
あれば、クリアだった音質が嵐や雷によって突然乱れてしまうというような
こともままあるものだ。人生という長いドライブの途上であれば尚のこと、
どんなに気の合ったラジオ局をみつけようが、歌声もディスクジョッキー
の案内も次第に先細りになってしまうものである。そうして無意識のうちに
車窓から眺めやった郊外や夕闇の風景は、そこで暮らす人びとの見えな
い表情を、窓明かりやネオンサインのおぼろげな灯りの中に如実に映し出
してしまうのであったが、結局はありきたりな日常は傍からみて幸せそうに
思えるといった程度の頼りない感情の殴り書きにすぎない。

しかし、そのときラジオから流れていたカントリーやアコースティックロック
の音色は町でいちばんの語り部の肉声とともに、心象風景のどこかへず
っしりと根を張っているだということを後のちになって知らされることになる
のだ。そんな感慨を起草させるのは木曜の朝にシャワーを浴びていたり、
深夜テレビの挿入歌にハッとさせられたり、あるいはどこかで見た光景に
酷似した印象を自分の住む街角で知覚したりしたときに、不意に表出する
ものなのであった。それは立ち消えた屋台の赤提燈であり、脱ぎ捨てたシ
ャツについた微薫なのであるが、わたしはまた懲りもせず、おもいカラダと
浮き立つ気分とをひきずって、夜の街やフリーウェイに飛び出してゆくの
であった。

そのようにして持ち帰って来たわたしの歌をわたしに気づかせてくれる女
(ひと)がいた。それは、ここへ帰ってくるための旅がそうであるように、必
ずしも旅の目的そのものから得たものではなく、今までそこに居た誰か
(もしくはそこにあったなにか)が偶然の産物として教えてくれるものなの
だ――あたかも予定調和のようにして。そうしてわたしは今朝、目の前に
あの波長をもった女が現われたことを知ったのだった。わたしは出だしの
柔らかなドラムスの音がすぐにも気に入った。彼女はわたしにとって単な
るお気に入りの一曲なのだろうか。それとも一生聴きつづけたいと思わせ
る名曲になるのだろうか。ミッシェル・ライトの歌う“New Kind Of Love”
が薄明かりのさす曇り空の向こうから力づよく聴こえてきたのだったが……。

(文=いしがきゆうじ)
[PR]
by momiage_tea | 2009-06-04 00:06 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


by momiage_tea

プロフィールを見る
画像一覧

リンク


■もみあげ亭アーカイブ
もみあげ亭ブログより抜粋した、選りすぐりのストーリをお届けします



■絵日記「TOMOt日和」
絵かきTOMOtの、旅とARTを感じる日々のおこぼれ日記



■木小屋日記(けごや日記)

山形県小国町在住のかご作家・炭焼き職人のブログ




ブログパーツ

カテゴリ

全体
ゆうじ × TOMOt
石垣ゆうじ
TOMOt
写真
TOMOt DesignWork

以前の記事

2012年 08月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 07月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月

タグ

(8)
(6)
(6)
(5)
(3)
(2)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)

その他のジャンル

ブログジャンル

画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31