往路書簡 ①


絵描きさんへ

早くも懸念事項にひっかかりました。ブログという不特定多数の読者を相手に
するこの媒体でぼくは未完成の小説を発表してしまいましたが、それはひとつ
の作品を書き上げるための、いわば口実というべき手法でありました。ご存じ
のようにぼくは根っからのズボラな性格なので、こうした些細な発表の場を得
るという形でしか作品が仕上がらないと考えたわけです。

おわかりでしょう。それがどんなに浅はかで愚かしいタワケであるかが! ぼく
の中の孤独はぼくの魂の奥底でこそ消化すべきなのです。一般的に売れっ子
の作家たちが連載という形式を用いてひとつの作品を作り上げることは日常化
しているけれども、ぼくは今、日常というこの身にふりかかる非文学的な世界を
描きながら、それでも意図的な無意識によってでさえも文学的に仕上がってし
まうであろう物語を紡いでいるのです。

ぼくの書くものはある人びとを困惑させ、憤りを覚えさせることもありうるでしょう。
しかし、それも厭わないとぼくは思っているのです。それはぼくが物書きであり、
そうすることによってでしか自分を救済できないことを知ってしまっているからな
のです。ぼくはジワジワと皆の信用を失い、周囲から警戒されてしまうことよりも、
いっそ一気にすべてを失いたいのです。隠蔽工作こそがぼくの作戦を成功に導
かせる鍵というわけです。鉄則なくして改革はありえません。

ほら、いつかきみに話した「強制収容所」から抜け出すために、ぼくはぼく自身
に科せられた刑期を終えてしまわねばならないのです。いやいや、刑期など
あるはずがない! だからぼくは爪を汚してここからこっそり逃げ出すための
土穴を掘り返しているのです。タイプするために、指先と精神とに余力を残して
おかねばならないのだから、えらく根気のいる作業にはなるけれども……。

追伸、小銭が入ったら藤田嗣治の群像作品展を観に行こうと思います。きみの
    作品もいつしか近いうちに必ず陽の目を浴びることになることでしょう。
    留置所の、この侘びいしい陽だまりのベンチから固い握手を送る。  
    (5月20日、14持58分)

(文=いしがきゆうじ)
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by momiage_tea | 2009-05-21 00:00 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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