【ある中編小説のために書かれた断片】 ~第24章より~


わたしは信用を失うことよりも自分を失うことの方が怖かった。それこそ
惨めったらしい末路である。わたしには見え隠れしている表裏一体の嘘
と誠が認識できる。そしていつでもわたしはその挟間にいて、ジレンマに
苛まれてきたのだ。(中略)わたしは展示用のパネルに貼り出すコピーを
でっちあげたのに過ぎなかった。理想という名の虚偽報告。あるいは偽善。

真実はいつでも包み隠されていて見えないどこかに置き去りにされているのだ。
けれども、わたしはその包みの中でもぞもぞしている怪物たちがわたし自身の
胸の裡に巣食って、やがて温かな感情を蝕んでしまうことを知っていた。(その
こと自体が真実だといってもいい)温かな感情は冷めてしまうというよりもむしろ
暑さ寒さもわからぬように、ひとつの、いやまったくの無と化してしまうのだった。

世の中は何も感じない人間たちでウヨウヨしている。わたしはそうした群衆の中
に放り込まれると違和感を覚えるのだ。わたしはまだ救いようがあるということだ。
だが、怒りはあまり感じなくなっていた。それが悟りというものなのか? わたし
は多くを望まない。だからこそ相手から多くを期待されることも望まない。放って
おいて欲しいだけのことだ。そして孤独になってはじめてものが書けるようになる。

怒りはない。それでも、わたしはあえて不愉快でいなければならなかった。あの
何も感じなくなってしまっている人類の群れにまみれてしまわぬように。そして、
少なからずわたしに何かを望み、絡んでこようとする職場の同僚たちと一線を
画するために・・・・・・。物書きという稼業は実に寂しく侘びしい人間を創りあげて
しまうものである。

(文=いしがきゆうじ)

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(絵=TOMOt)

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by momiage_tea | 2009-05-15 21:29 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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