【ある中編小説のために書かれた断片】 ~第6章より~


「ほうら、受け取りやがれ!」わたしはビニルテープをしたたか机に打ちつけた。
青と黄と緑の三色セットだった。
「なんだってこんなにたくさん買ってきたんです?」マチョはいった。
「三巻セットになってるのしか売ってなかったのさ。まだつべこべいうのかこの筋肉
野郎め!」
「ふうん」
「さあさあ、マチョ君」わたしは揉み手をしながらいった。「これから昼休みに入るもん
でね。そこの相棒さんにとっとと湯を沸かすようにいっておくれやしませんかね?」
「まあまあまあ、慌てなさんなって」
「早くしないと売り場の図面が仕上がる前に日が暮れちまうぞ!」
マチョは散歩を拒む座敷犬のような悲しげな表情を浮かべると、またも鼻息をもら
した。さっきよりも荒々しくだ。するとそこへスクラッチーがやってきた・・・・・・。

(中略)
 
スクラッチーはいつでも噂を聞きつけてやってくる。彼はマチョを机からどけさせると、
青のビニルテープをコードに巻きつけはじめた。わたしはそこからわずかに離れた
テーブル席に座って、おにぎりを食べはじめた。中身の具は昆布だった。備え付け
のコンピュータを開きインターネットで最新のスポーツニュースを眺めていた。5分が
経過したところでわたしはスクラッチーと彼に茶々を入れているマチョの様子を観察
しだした。湯沸かし器にはまだ電源が入ってはいなかった。わたしはスクラッチー
に檄を飛ばした。この手の男は褒めて使うのが一番だった。それに、いち早く即席の
カップ麺にありつくためならばわたしはどんな相手にでも媚を売ったことだろう。そこ
からさらに5分が経過した。

マチョはしばしどこかえ消えていたがまたストックルームに舞い戻ってきていた。修理
にてこずるスクラッチーにまたも難癖をつけて冷やかしている。わたしはコンピュータ
の画面を見ているふりをした。わたしの憤りはポンコツの湯沸かし器よりも先に沸点に
到達してしまいそうだった。マチョはそのことに気づくと「まあまあ落ち着いてラクさん」
といって気安くわたしの肩を叩くのだった。
ただならぬ電子音が発せられたのはちょうどそのときだった。青白い閃光が稲光り、
ほやほやと幽かな煙が立ち昇っていた。そのバチッという音にはどこかしらノスタル
ジックな響きが交じっていた。わたしは現実を目の当たりにしながらもアニメかSF
映画の世界を垣間見ている気にさせられた。いずれにしても一瞬の出来事だ。目の
端でスクラッチーが「ワオッ!」とのけ反り、わたしの肩に爪を立てながらマチョが大
きく飛びのいた。

スクラッチーのメガネはレンズにシャッターが下ろされたみたいにほんの刹那、まっ白に
なった。だが髪の毛が逆立ってしまうということにはならなかった。わたしはまったく平静
だった。それでもスクラッチーとマチョがおののき、喚声をあげているのを見て、咄嗟に
自分もこの騒動に加わった方がおもしろいだろうと思っただけだった。
死んじまうところだったぞスクラッチー!」わたしはいった。
電源に差し込んだまま作業しちまったよ俺は!」スクラッチーはいった。
「労災なんて出やしないんだから、くたばらなくてよかったじゃないか」マチョがいった。どの
顔にもからかうような笑みが広がっていた。スクラッチーはコンセントからコードを引っこ
抜くと「おいおいおい、銅の融点ってのはどのぐらいなんだよ!」といいながらこちらへと
やってきた。わたしからコンピュータを奪い取るとインターネットで銅の融点を調べだした。
とんでもねえぜ!」奴はいった。「おいおいおい、銅の融点ときたら1081℃だぜ!
 
巨万の富とおなじくその温度がどれほどのものなのかわたしには想像もつかなかった。
きっと銅線をも融かしてしまう温度なのだろう。そしてそれは死を彷彿とさせる温度でもある。
「さっきあんたの顔に髑髏(シャレコウベ)が浮かびあがっていたよ」わたしはいった。
「髪がちりちりにならないだけ良かったじゃないの」うひょうひょ笑いながらマチョがいった。
1081℃だってよ!」得意げにスクラッチーはいった。「俺の身体に1081℃の電流
が流れたんだぜ!
」また話がおおきくなったとわたしは思った。だが、奴にのることにした。
1081℃の男だなスクラッチー!
1081℃の男だぜ!
「早いとこ放電しないとまずいことになるんじゃないの?」マチョはいったが、スクラッチーは
恍惚としてその言葉が耳に入っていないようだった。
1081℃だってよ!」スクラッチーはいった。「おっかねえ、やばいよ、1081℃!
「いっそのこと、1・0・8・1と書いたTシャツでもこしらえたらどうなんだい?」

(文=いしがきゆうじ)
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by momiage_tea | 2009-05-13 22:18 | ゆうじ × TOMOt


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