『も』は もみあげ の『も』 by トモッと
キリンさんたちはささやきあった。
「どうしちゃったのかしら、あのふたり?」
リスちゃんたちもヒソヒソ声でいいあった。
「こわいね。なにごともなけりゃいいのにね」
カバさんたちは池のなかにもぐりこんだ。
「おれたち、とても見ちゃいられないよ」
サイの群れはだまってみんなで寝てるふりをした。
「ぐーぐー、すーすー」
バンビのお母さんは赤ちゃんバンビをたしなめた。
「見てはだめよ。さあ、坊やこっちへきなさい」
ライオンの王様は、ニヤリとして妻にいった。
「子どもたちを呼んできなさい。人間よりもおもしろいものを見せてあげよう」
ハゲタカとハイエナの兄弟は声をださずに目だけでいいあった。
「ムヒヒ、今日は仕事をしなくてもよさそうじゃないか」
子ザルたちは肩をよせあってただただ震えあがっていた。となりでは、
サルのわかい衆が、興奮してなにもできずに「キーキー」とさわいでいた。
「やれやれ」ヒヒの爺さんはつぶやいた。
ダチョウは右へ左へかけ出し、シマウマのもようは白と黒が入れ替わった。
クマの旦那はアライグマの子分をつれて河へマス釣りに出かけていった。
血の気のおおいバイソンは、鼻いきまじりにヌーをからかった。
「おい、おれたちもやろうじゃないか!」
すると平和主義のヌーは、口をモゴモゴして聞こえないふりをしてみせた。
「――みなの衆!」ヒヒの爺さんがいった。
「心配せんでもいい。かれらはケンカしてるんじゃあないのさ」
いっせいにジャングルの仲間たちはヒヒ爺さんのほうをふりむいた。
「――だったら、いったいなにをしてるというのさ、ヒヒ爺さん?」
木のかげから、いつもはひとりでいるはずのヘビがたずねた。
みんなはヘビのほうをむいた。そしてまた、ヒヒ爺さんのほうにむきなおった。
「ちから比べじゃよ――」ヒヒ爺さんはこたえた。
みんなはおそるおそる、ゆっくりと、ゾウさんのほうをのぞき見た。
やがて、ジャングルの仲間たちの顔にはみるみる笑みがひろがっていった。
「キミ、強いね――」青いゾウさんがいった。
「いや、キミのほうが強いよ――」赤いゾウさんもいった。
「――ふたりとも強いよ!」とそこへ、ひとりの子ライオンの叫び声がわってはいった。
ジャングルの仲間たちは、よろこんでいいのかわからなくなって、
ちらりと王様ライオンのほうをみやると、だまってつぎのことばをまった。
「そうだな坊ず。青いのも、赤いのも、ゾウはどっちも強いな――」
王様ライオンは子どもたちではなく、妻のほうを見つめながらそういった。
ジャングル中がドッと沸きかえった。そして、だれかれかまわず歓声をあげた。
「そうさ、ふたりとも強いのさ!」
「そうだ、そうだ、あの王様がいうんだからまちがいないさ!」
「うん、それに、ふたりともとってもやさしいんだから!」
「わかったかね」ヒヒの爺さんは自分に聞こえるようにだけいった。
「だから、ケンカなんてするはずがないのじゃよ・・・」
王様ライオンはみんながゾウのほうへ走っていくのを眺めていた。
すると、さっき大声で叫んだ子ライオンが、母ライオンに近よってきて聞いた。
「でも、お父さんのほうがもっと強いんでしょ?」
母ライオンは「そうよ。お父さんはジャングルで一番つよいのよ」と答えた。
「ほんとう?父さん」子ライオンたちはいっせいに、王様の父さんライオンをみた。
王様は子ライオンたちになにもいわないかわりに、
大きくて白い、りっぱなキバをみせてニッコリと笑ってみせた。
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(画=トモッと、文=石垣ゆうじ)
by momiage_tea
| 2005-06-10 15:42
| ゆうじ × TOMOt