【木漏れ日】 (6月1日。三つの物語、その③)
日の傾きかけた代々木公園。かつての職場の同僚3人が一種
独特の恍惚から抜け出せぬまま、ベンチに腰掛けている。ひと
月前に仕事を辞めたぼくと、きのう辞めたばかりの彼、そして変
わらず勤めている彼女とが、めいめい不思議な感慨を抱きつつ、
限られた時間を共有しているのだった。
明治神宮の南参道から代々木公園へとむかう道すがら、ぼくら
はひとしきり感想を述べあった。いまこの瞬間、横綱の土俵入り
を凌ぐものがあるとすれば、それは白鵬の新妻、紗代子夫人の
色香る美貌しかなかろうというのが全会一致の意見であった。
白鵬のしろい肌に、(宮城野部屋を興した第43代横綱)吉葉山
から引き継いだという新緑色の化粧回しも鮮やかであったが、
たとえそれが双葉山であったとしても勝ち名乗りの軍配は、うす
桃色の着物につつまれた紗代子夫人にむけられたことであろう。
ぼくと彼と彼女。それぞれ程度の差こそあれ、先の見えない不安
とつかの間の安堵をおぼえていたのではないか。ぼくらは記念に
一枚写真を撮った。程なくして散りぢりとなる3人ではあったが、
あの刹那に、確かにときを共にしたのだという記憶の絆を、しかと
深めあったに違いない。そんな木漏れ日のひとときであった。
■
(文=石垣ゆうじ)
独特の恍惚から抜け出せぬまま、ベンチに腰掛けている。ひと
月前に仕事を辞めたぼくと、きのう辞めたばかりの彼、そして変
わらず勤めている彼女とが、めいめい不思議な感慨を抱きつつ、
限られた時間を共有しているのだった。
明治神宮の南参道から代々木公園へとむかう道すがら、ぼくら
はひとしきり感想を述べあった。いまこの瞬間、横綱の土俵入り
を凌ぐものがあるとすれば、それは白鵬の新妻、紗代子夫人の
色香る美貌しかなかろうというのが全会一致の意見であった。
白鵬のしろい肌に、(宮城野部屋を興した第43代横綱)吉葉山
から引き継いだという新緑色の化粧回しも鮮やかであったが、
たとえそれが双葉山であったとしても勝ち名乗りの軍配は、うす
桃色の着物につつまれた紗代子夫人にむけられたことであろう。
ぼくと彼と彼女。それぞれ程度の差こそあれ、先の見えない不安
とつかの間の安堵をおぼえていたのではないか。ぼくらは記念に
一枚写真を撮った。程なくして散りぢりとなる3人ではあったが、
あの刹那に、確かにときを共にしたのだという記憶の絆を、しかと
深めあったに違いない。そんな木漏れ日のひとときであった。
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(文=石垣ゆうじ)
by momiage_tea
| 2007-06-06 16:03