祭りのあとで・・・

 

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  “ある日、気がつく。つい昨日までよくよく知っていたモノが、もうどこ
    にも無くなっている。あるモノが無くなるというのは、モノがただ無く
    なるというだけではない。そのモノを言いあらわす言葉がなくなる
    ことであり、その言葉が無くなることは、その言葉にあらわされる
    人生の背景が無くなってしまうことだ。モノには、そのモノが喚起
    する記憶がいっぱい詰まっている。とりかえのきかない経験の容
    れ物が、記憶だ。”    (――長田弘、『アメリカの61の風景』)



  午前3時03分、神田小川町の夜。
  大切ななにかを忘れてきたという思いにかられて、ひとり、通い馴れた
  黄色いビルへと立ち寄った。無人のはずの建物の中で、とおくから潮騒
  のような笑い声が聴こえてくる。仲間たちの笑い声だった。

  快活で、明るいふるまいを忘れない仲間たちの姿が、窓ガラスの向こう
  に浮かんでは消えてゆく。そこにはまだぼくもいて、みんながおどける輪
  からちょっと離れたところで、うれしそうに彼らを眺めているのだった。

  黄色いビルの全体をゆっくりと確認するように見やった。そうしてここでの
  2年半の歳月を振り返り、気づく。忘れ物はきっと気のせいで、ぼくはすべ
  てを持ち帰ってきたのだろうと。忘れ物は、見つからなかった。

  被っていたハンチング帽をかるくかざして、黄色いビルに、この町と仲間
  たちに、そっとお別れをした。立ち去る間際、振り返るまいと決めた。けれ
  ど、そう思うのと同時にぼくのカラダは黄色いビルを向いていた。
  午前3時03分、神田小川町の夜だった。

  ■
  (文 石垣ゆうじ)
   □  
  (絵 TOMOt)
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by momiage_tea | 2007-04-21 08:51 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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