潮流

天龍一派の脱退があった昭和七年一月場所について、作家の尾崎士郎はこう書き記している。
「ともかく一応開かれたとはいうものの有望力士を失いつくした土俵は見るに忍びないほどの寂
寥感にみちみちていた。十両から抜擢された大邱山、双葉山等々の小力士が幕内格で土俵に
のぼった姿は、いかにも空虚を埋めたというかんじだけがつよく、新鮮な魅力の対象となるには
おそろしく内容的にも不足なものがあり、僅かに国技館の人気を支えていたものは玉錦、能代潟、
清水川、沖ツ海、高登くらいのものであった。」(――『相撲を見る眼』)
 
不滅の六九連勝を成し遂げた不出世の大横綱双葉山をしても、当時の尾崎の眼には甚だ「内容
的にも不足」に映る「小力士」に過ぎなかったのだ。この状況はいまの相撲界の置かれている苦境
と非常に近しいものがあろう。負け越しても関取に昇進した幕下力士の記事がスポーツ紙をにぎわ
していたけれど、穴埋めのために十両から幕内へと昇進した力士も一人や二人ではない。年度内
に予算を使いきるために作られた町民体育館みたいなもので、その後のイベント・スケジュールも
利用者も空っぽという具合になってしまってはもともこもないのであるが。

しかし、かの双葉山が正当な実力を評価されたのではなく、相撲史に残る「春秋園事件」(待遇改善
を求めた力士と相撲協会との紛糾の末、大量の力士が協会を離脱した)に端を発した、ときの潮流
に乗じての幕内昇進劇であったことを鑑みるとき、「地位が人をつくる」という言葉に、浮き立つような
明るさも立ち上ってくるようである。このような明日の見えにくい時代には、民衆はヒロイズムを欲す
るものだ。その存在自体が不信任である政治家たちが、こぞって震災を食い物にして首相降ろしに
躍起になったところで、国勢が上向くはずなどないのであるからして、私たちはもはや誰にも頼らず、
自ら起つことでこの辛苦を乗り越えるしかないのだろう。問題は身を献じるに値する土俵が目の前に
あるかどうかだ――。

(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-06-02 23:14 | ゆうじ × TOMOt


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