あの夏の忘れ形見 (7月21日)

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中庭に軟式野球のボールがおちていた。誰が忘れて
いったのだろう? あれだけたわわに実ったビワの果実もすっかり朽
ち果てて――カケスの一群が無駄なく食い尽くしていった――いまで
は南国仕様の葉っぱがそぞろ揺らいでいるだけである。

木陰にひっそりと伸びた雑草のなかで、取り残された思いの白球が
ただひとつ、主の帰りを待っている。遠くでは小学生の歓声が響き、
プールの水しぶきがこの部屋にまで届いてきそうだ。こうして2階の
小部屋で夏のむっとした空気にさらされていると、草いきれをかきわ
け白球を追いかけていた少年の日々が、きのうのことのように思い
出されてくる。

あれは東北大学の図書館前に駐車場が整備されるずっと前のことだ
った。砂塵が熱風に舞い上がるネット一枚だけ張られた野球場。大学
の棟連と樅(もみ)の木にかこまれたそのグランドで、じっと自分の順番
が巡ってくるまで外野に立ち尽くしていたものだった。(ときおり自分の
頭上を越えていくホームラン性の当たりには気が遠のいたけれど・・・)

そのときは野球が好きというより、金属バッドの快音やくたびれたグラブ
の柔らかさ、夏草と土の匂い、汗だくで飲んだ瓶入りの炭酸飲料、被り
なおした野球帽の感覚、日差し。なによりも近所の年上の幼馴染みと
自分とが、改めてチームの一員――仲間なのだと認識しあえた誇らし
い気持ち――が好きだったのかもしれない。

教授や親のすねかじりの自動車がならぶあの駐車場の片隅の茂みに
は、いまでもボクらを待ちわびている軟式ボールのひとつも転がってい
るのかもしれない。

文・石垣ゆうじ
絵・トモット
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by momiage_tea | 2005-07-21 15:05 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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