黙々と、粛々と、

おびえている。私は私の人生に震えている。やり逃した悔恨の日々と、やることから目を背けた日々
の終着は、果たして時間調整の一旦停止にすぎなかったのだ。陽がのぼりまた一日がはじまるみた
いに、困難もしつこくついてまわってくるのだった。やられることにあまりにも慣れすぎて、ちょっとした
幸せにさえも落ち着かなくなってしまった。人びとはもうあるがままに楽しめなくなっている。やさしい
人は自らよわい人間に成り下がり、相変わらず誰かの尻拭いをさせられているのだ。文字通り、クソ
を垂れてもケツを拭かない奴らのために。私はますます冷淡になっている。そのおかげで迫られた
取捨を、正確かつ直感的に裁くことができるようになっていた。こと兄に関しては絶対にそうだ。そう、
むかし兄だった男のことに関しては。奴は親の貯えをすっからかんにして、私の「絶好のタイミング」
も奪っていった。そうしてカラカラに干上がった果実からさらに搾り汁を啜るつもりでいるのだ。私は
奴との縁をきった。それで気楽になったつもりでいた。しかし父と母とはそのままだから、両親の抱え
る膨大な心配ごとを思うと気が滅入らずにはいられなかった。奴はきまって朝の八時に神戸から長
距離電話をかけてきた。父はその電話をただちに切ると電話をかけなおした。電話料金までこちらも
ちだった。そのむかし私の兄貴だった男は、きっといまもプロ野球選手を夢見ているのだろう。けれど、
グローブもバッドもボールもユニフォームもスパイクにジョギングシューズ、そして専用のグラウンド
にトレーニング施設やトレーナーをつけてやったところでその夢は叶えられるはずなどなかったのだ。
バッドひとつ振らない輩になにができるのか。そのくせひとの人生を元手にインチキ賭博だけはやた
らと得意だ。政治家にも劣るこの人間がこないだまで私の兄だったのだ。おびえているといったのは
嘘で、私は逃げも隠れもせずにここにいる。ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。そうして奴が手にしなかっ
たバッドを私は握りしめ、見えない何かをかっとばすために素振りを繰り返す。ビュッ、ビュッ、ビュッ、
ビュッ。ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、と。

(文=石垣ゆうじ)■
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by momiage_tea | 2011-02-19 22:55 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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