ヤタガラス

昨夜、帰宅すると一通の手紙が届いていた。木版画でこしらえた丸い割印のなかには送り主
の氏名と住所、そして手紙をくわえたご機嫌なヤタガラスが彫り込まれていた。彼女は昨年い
っぱいで仕事を辞め、野垂れ死に覚悟で旅にでることを夢見る永遠の少女である。私よりひと
まわり年上のおなじ寅年の彼女は、旅へ向けて部屋の片づけに勤しんでいるらしい。けれども
「やはり板と紙は捨てられなかった」という根っからの彫師でもある。旅立ちはその板と紙がな
くなるまでしばし先延ばしにするようだ。私は彼女の手紙を読みながら、ぷんと鼻をつく和紙の
香りをしみじみと嗅ぎ、変わりばえのない日常に失われてしまったものがなんだったのかひし
ひしと実感させられていた。年の瀬の職場の窓辺には枝のついたままの柚子がいくつか置か
れていて、「柚子湯でもどうぞ」と書かれたメモ書きが添えられていたのだったが、そうした季節
の便りのような、慎ましい幸いというべき楽しみ方を、彼女は屈託のない笑顔とともにいつも私
たちに届けてくれたものだった。街のビル群に囲まれた建物のなかで働く私たちは、そうしたさ
さやかな届け物に一服の清涼剤となるだけの気づきを見いだすことができていただろうか。雨
の匂い、風の匂い、草花の匂い。おひさまの匂い。失われてはならないはずだった日々の研ぎ
澄まされた感覚。――彼女はここを去ったけれど、まるでくちばしに手紙をくわえた一羽のヤタ
ガラスのように、そっとそこいらの停まり木からこちらを見守ってくれているような気がするのだ。

(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-02-05 23:49 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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