7時40分発、東京行き

私は仙台駅を発ち、福島駅で待ちぼうけを食らっていた。東北新幹線の車輌には
辛抱することにあまりにも慣れすぎている人びとの諦めにも似た苦い笑いがひろ
がっていて、愚痴やため息をもらす者の姿はほとんど見られなかった。すくなくて
も私がいた七号車ではそうだった。

通路をはさんだお隣さんは、見知らぬ他人同士の相席だった。「葬式があるんです
がこりゃ間に合いませんよねえ」と声だけはやたらと新入社員のように若々しい四〇
がらみの男がいった。「そりゃ大変ですな」と気功を全国に広めているという、坊さん
みたいに貫禄のある声をした爺さんがいった。

新聞をめくったり、ふて寝をしたり、携帯電話をいじったりしながら、乗客はそのふた
りの会話に耳を澄ませていた。会社の代表で葬儀に参列するのだという男にあせり
の色はなく「葬儀は終わってしまうでしょうから、喪主さんの自宅に出向いてお悔や
みをしてきます」といった男の言葉に私たちは安堵した。ふむふむと相づちをうつ気
功の先生も、はなからこのあらがいようのない混乱をいたずらにはやしたてるつもり
もなく、さすが気功の達人だと知らしめるに充分な聞き役ぶりで聴衆の気持ちを代弁
するのだった。

ふたりの話しぶりはまるで「まま、みなさん、穏やかにまいりましょうよ」といった具合
で、我々は五時間ちかくも新幹線に閉じこめられながら、ラッシュアワーの忙しなさも
みせずにおとなしく東京駅のホームに降り立った。人が訪ねてくることがない代わり
に、人を訪ねることもない私は、この日、ふたりの人物に会うために久方ぶりに上京
をしたのだったが、そんな珍しさがこのダイヤの乱れを招いたのだろうか。

未来都市のような新宿の都庁のすぐそばで、私は師と仰ぐ詩人と出会い、有楽町で
は盟友である絵描きと酒を酌み交わした。停車を余儀なくされた時間の喪失がかえっ
て濃密な出会いによってかけがえのない時間となった。せき止められていたダムは
崩壊し、いま自然の流れを取り戻そうとしている。
■□
d0059157_2143565.jpg

(文=石垣ゆうじ 絵=TOMOt)
[PR]
by momiage_tea | 2011-01-16 22:04 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


by momiage_tea

プロフィールを見る
画像一覧

リンク


■もみあげ亭アーカイブ
もみあげ亭ブログより抜粋した、選りすぐりのストーリをお届けします



■絵日記「TOMOt日和」
絵かきTOMOtの、旅とARTを感じる日々のおこぼれ日記



■木小屋日記(けごや日記)

山形県小国町在住のかご作家・炭焼き職人のブログ




ブログパーツ

カテゴリ

全体
ゆうじ × TOMOt
石垣ゆうじ
TOMOt
写真
TOMOt DesignWork

以前の記事

2012年 08月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 07月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月

タグ

(8)
(6)
(6)
(5)
(3)
(2)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)

その他のジャンル

ブログジャンル

画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31