パズル

“おれは今三十七歳、すこぶる健康のうちに書きはじめ、死ぬまでやめないつもりだ。”
     (ウォルト・ホイットマン(『おれにはアメリカの歌声が聞える――草の葉(抄)』)


サッカースタジアムには二万人の観衆がいた。試合後かれらにものを書かせた。
ゲームの興奮、ゴールの素晴らしさを語ったのが大半だった。なかにはどうして
あんなに芸術的なフリーキックが蹴れるのか、映像やデータを集めて検証したり、
そのストライカーが履いているスパイクシューズの特性を調べて解明しようとする
者がいた。あるいはゲーム中の監督の采配の妙や、そもそもこの見事な試合を
演出した緑のフィールドに感動し、グラウンドキーパーに取材を試みる者もいた。

面白いのは試合にはほとんど触れず、別れた彼女との最後のサッカー観戦に思
いを馳せ、彼女へオマージュを捧げた者がいたことだ。サポーターの人間関係だ
とか、売店のつまみの味だとか、ハーフタイムに出てきたチアガールの、右から
何番目が好みだと書いた者がいた。オーナーへの不満や補強選手のリストアップ
をかってでる者もいたし、スタジアムへくる途中に地下鉄で読んだ本のことを書い
たり、家で留守番しているかみさんのことを書いたおやじもいた。(彼はこのところ
かみさんとうまくいってないのだ。)文章は一行も書かず、ゴール裏で構えるカメラ
マンの素描を描きのこした者もいたことだろう。わたし? わたしはスタジアムの照
明に群れバチバチと音をたてて死んでいゆく、あの夥しい虫どもについて書いた
のだったかもしれない。

いずれにせよ、人は何かを見て何かを感じるものだ。何も感じない鈍感な人間もい
て、感じすぎてしまう繊細なものもいる。後者の方はどちらかといえば何かを背負い、
何かに怯えて、何かに疲れ、それでも人知れず何か喜びを味わっていたりするのだ
が。わたしはそれらの物事を書かずにはいられないのだ。好み、楽しんでというよりも
むしろ、わたしという欠落した存在の穴埋めのために。願わくばその空虚にはめこま
れた人生の断片であるピースが、一枚の矜持をかたどってくれたなら。

(文=石垣ゆうじ)
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by momiage_tea | 2011-01-01 20:11 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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