『パリの異邦人の回想』

パリでおれはひとりの異邦人だった。
ということはありきたりな奴だってことだ。
安い、中華の量り売りで空腹をみたすと、
おれはアパルトマンに囲まれた石畳の中庭で
足の疲れを逃がしてやった。
そこは他人の家のトイレって感じがした。
ベンチからは、薬局を併設した八百屋が見えた。
おれは歩いていって、
白衣の娘に喉仏を指さし、苦い声をもらした。
きっとこの男は風邪なのだと伝わったはずだ。
娘は、バイトにしかみえないバイトだった。
専門知識があるとは到底おもえなかった。
しかし、娘はカウンターの内側にいて、
白衣を着て、おれを見下していた。
ある種のプロの、透徹した目つきでそこにいた。
おれは処方箋の袋を片手に、また歩きだした。
気づくと、ポルトガル人の移民街にいた。
うまそうな匂いのもとは定食屋だった。
店をのぞくとポルトガル語が飛び交っていた。
おれはフランスよりもポルトガル語の響きの方に
安らぎを覚えた。
絵に描いたようなポルトガルのおやじが
おれに気がついて、おれは立ち去った。
おやじの冗談がきこえた。異邦人にはやさしい、
誰も傷つけない冗談だった。
おれはルーブルまで来ていた。
オルセーに行くべきだったが、
おれはルーブルに来ていた。
骨董品をあつかう美術館よりも、
目の前のまがい物屋の方にひかれた。
ふとみると美術館のなかから、
宗教画に飽きたふたりの女の子が
おれに手を振ってiいた。
おれは子供が苦手だった。
しかしそのふたりの女の子の目には、
あの憎悪を宿した白衣の娘にはない、
輝きがあった。
おれは手を振りかえした。微笑みすらもお返しした。
通りの向こうの露店はバッタものであふれていて、
エッフェル等、オペラ座、凱旋門の置物や
あるいは複製画に絵はがきの類がやたらとあった。
サッカーのユニフォームも売られていて
強豪国にまぎれて、我が祖国、
ジャポンのユニフォームも売られていた。
そのシャツの色はしかし、青色ではなく
日の丸色だった。
むしろ、とおれは思った。それが本当なのだと。
インチキ物を売る店の主人は、
ひどくインチキ臭い男だった。
そこで時間をつぶす観光客はもちろん、
このおれも、やっぱりインチキ臭かった。
そのころおれは、まだなにも書いていなかった。
だから、いまよりも幸せだった。

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by momiage_tea | 2010-12-12 00:11 | ゆうじ × TOMOt


モノ書き石垣ゆうじとモノ描きTOMOt「もみあげ亭」二人による気まぐれ日記


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