『も』は もみあげ の『も』 by トモッと
みみずく・ボーは自己嫌悪におちいっていた。
カレは、夜間警備の仕事を己のプライドにおいて長年忠実にまっとう
してきたみみずくのなかのみみずくだ。しかし、近年多発するもろもろ
の事件の責任はただひとり、みみずく・ボーの職務の怠慢とみなされ
ていたのである。
きのう、もみあげ星の南西に位置する自然保護地区――「エヴァンジェ
リン」において勃発した――山賊カラスによるヤマネ(山ネズミ)の坊や
誘拐未遂事件の折にも、『サイドバーン・トリビューン』紙の取材に応じた
タヌキのおかみさんは、「みみずく・ボーときたら、二日酔いの千鳥足で
飛ぶこともできずにそこいらじゅうをずっとフラついてまわっていたのさ!」
とコメントした。
みみずく・ボーはしらふでっあった。それどころか酒の一滴も、タバコ
も、早朝のジョッギングもやらないかわりに、勤勉な読書家のカレは、
その日、ぶ厚い哲学書をまるまる3章も読み終えていたのである。
みみずく・ボーは、己の潔白を晴らさんべきか思案し、近眼のワイフ
に相談を持ちかけてみた。ところがワイフは、ただ旦那の打ち明け話
をだまりこくって聞きあげただけで、なにも口にすることなくそっとソフ
ァをたったのだった。
ボーはひどく狼狽した。「ついに愛する伴侶にまで裏切られたか!」
するとボーはふたたびワイフの足音、いや、羽音を聞いた。彼女の脇に
はその日の朝刊がはさまれていた。「あなた、たまには夜勤明けにも新
聞に目を通したらよろしいんじゃないこと――?」
ボーがさし出された朝刊――『サイドバーン・トリビューン』紙をひらいて
みると、その一面には、“ボクのヒーローはボーおじさん!”の見出しと
ともに、おすまし顔のヤマネの坊やの写真がのっていたのである。ボー
はその記事をしばらく見つめると、寝不足で充血した眼をさらにはらして
ボロボロと泣いた。
「おやまぁ、このひとったら・・・」近眼のワイフはまるで子どもをあやすか
のように彼女の肩で咽び泣く、愛おしい旦那の背中をさすりつづけた。
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絵=トモッと
文=石垣ゆうじ
by momiage_tea
| 2005-06-25 01:31
| ゆうじ × TOMOt