駅前の憂鬱
携帯しても苦にならない小判サイズの辞書を二冊買い込んで、駅前の本屋
の二階にある喫茶店へと向かった。駅の周辺はあまり好ましい印象がなく、
これまで必要にかられる用事が発生しなければ滅多にのんびりすることも
ない地域だった。
駅の周辺はどこも再開発に余念がなく、それでいて廃墟がましい錆びれた印
象をぬぐい去れない、どこか陰湿な気配が立ち込めているのだった。夜とも
なればここへ帰ってくる者よりもここから出てゆく者の方が圧倒的に多く、取り
残された乗客であるわたしは嫌でも見送り役に徹しなければならなかった。
それがどういうわけか祝日の夜の、いたって客足の引きが早いような夜に限っ
てそういう配役が巡ってくるのであった。いまや郊外型の生活はぶちまけたバ
ケツの水みたいに広がりをみせており、それが仙台の中心部にあった個性的
な専門店や建造物を加速度的に駐車場やコンビニエンスストアに変貌を遂げ
さす要因となっていた。
ある日、昨日まであった建物がすっかり跡形もなく無くなっている――。その
場で郷愁にかられる間もなく、画一的で味気のない商業ビルがのっぺりと立
ちすくんでこちらを見下ろしてくるようなときには、わたしは、ただ観念してすべ
てを許容してしまうことしかできない。やり場のない憤りや喪失感のハケ口は
ほとんど劣化ともいえる心の硬化現象によって解消されるのだった。
(文=いしがきゆうじ)
by momiage_tea
| 2009-07-20 20:57
| ゆうじ × TOMOt